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24.模索

 ラジールは刺客を城に連れて帰り拷問にかけ、頭がいるアジトを吐かせた。頭を含め覆面集団全員が警邏隊に確保された。

 頭からエドワードの暗殺を依頼してきた者を聞き出したラジールは、エドワードの元へ向かった。


 ラジールが覆面集団の頭から聞いた話では、仮面をつけた貴族らしい男からその場で金銀財宝を受け取り、依頼を受けた。名は名乗らなかったのでわからないという。


「こちら側に住む暗殺者に依頼したということは、こっちの貴族では?」


「何故おまえの国の貴族がわたしの命を狙う?」


「うーん、俺への援助を断つために?」


 エドワードは鼻で笑いながら横目でラジールを見た。


「国同士戦争になりかねないのに。本当にそうならおまえの国の貴族はおまえと同じであほうだな」


「なんだって!?」


「おまえが邪魔ならおまえを狙えば済むことだ。わたしを殺してもおまえが国王になる道が立たれるわけではない」


「おっ、なるほど、そうだな」


 ラジールは掌を拳でポンと叩いた。エドワードは軽くため息をついた。


「おそらく首謀者は身元がバレるのを恐れて、他国の暗殺者に依頼したのだろう。首謀者は我が国では顔を知られている人物ということになる」


「それなら代理人を立てて依頼すればいいことじゃん」


「王太子暗殺だぞ。ことは重大だ。首謀者とバレてみろ、本人だけでなく、家門全員死刑だ。傍系に及ぶ可能性だってある。よほど信頼おける者か、自身で行動するしかない」


「ふーん……エドワードは首謀者の目星がついてるのか」


「そういうところは鋭いな。……証拠がないから今は言えないし、関係のない者を巻き込みたくない……」


エドワードは誰かに対して思慮しているようだった。ラジールは何かに気づいたような顔をし、エドワードに問いかけた。


「で、どうやって国へ帰る?秘密裏に帰るのは難しいと思うよ。エドワードもエリスチャンも目立つからねぇ」


「わたし一人ならなんとかなるかもしれないが……」


 ラジールはチャンスとばかりに満面の笑顔で身を乗り出して言った。


「いいよ、いいよ。エリスチャンのことは預かっても!なんなら一生!大事にするよ、俺の妃になって……」


 エドワードはラジールの頭を小突いた。ラジールは嘘泣きをしてエリス姿のアイリーンに頭を寄せて撫でて欲しいという仕草をした。エドワードは再び小突いた。


「国の大事な聖女をおまえなんかに任せられるわけないだろう。それに連れて帰らなければ、陛下になんと言われるか」


「じゃあ、いっそのこと堂々と帰れば?エリスがいれば怖い者なしじゃん」


 今まで黙って聞いていたエリス姿のアイリーンが口を挟んだ。


「殿下は病に臥せていることになっています。行方不明ということは王族の側近と上位貴族しか知りません」


「あれーそうなの?んじゃあ、こっそり帰んないとね」


 三人はしばらく黙ってそれぞれ考えていた。

 いい案が浮かんだのか、エリス姿のアイリーンが明るい顔をして席を立った。


「この国の民の偽証明書をラジール殿下に発行していただいて、殿下とわたしは変装して新婚旅行ということにすればいかがです?そうすれば宿でも道中でも怪しまれないと思いますわ」


「ダメだ!」「ダメだよ!」


 エドワードとラジールはほぼ同時に言葉が出た。


「新婚旅行ということはそれなりの態度を示さなければならない。それは……出来ない」


「そうそう、そういうことは絶対許せないね。それにエドワードとエリスのカップルなんて、それこそ大目立ちだよ」


 エリス姿のアイリーンは名案だと思っていたので少しだけガッカリして座った。


「そうですか……いいと思ったのですが……」


 アイリーンは他にいい案がないか考えた。人差し指と親指を顎に当て俯いていると、その姿はかなり落ち込んでいるように見えたらしい。ラジールが慌てて補足した。


「エリスチャンの案が悪いわけじゃないからねっ。とーってもいい案なんだよ。ただ、言いたくないけど、エドワードだよ?この容姿だよ?一人でも目立つのに、そこにこんなに美しいエリスチャンが加わって二人でいてごらん、町中、いや世界中の噂になりかねないよ?」


 ラジールは早口で喋って一息つき、再び喋りだした。


「それにね、新婚旅行という設定だよ。怪しまれないために皆んなの前で、あーんなことや、こーんなことをしなければならないんだよ」


 アイリーンは「あーんなことや、こーんなこと」の意味がわからなかった。エリス姿のアイリーンが首を傾げていると、ラジールは指を立てて横に振りながらいった。


「あ、エリスチャンは知らなくても大丈夫。とにかく、俺としてはエリスチャンとエドワードがイチャつくなんて耐えられないんで。それにエドワードが演技できるとも思えないんで、却下しただけだからね」


 アイリーンはラジールの「エドワードが演技できるとも思えないんで」の言葉に共感し、笑った。

 ラジールはエリス姿のアイリーンの初めて見る屈託のない笑顔を見て、胸が高鳴り思わず頭頂に口付けをした。


「ラジール!」


 エドワードが立ち上がり、ラジールの胸ぐらを掴んだ。ラジールはハッと我に返った。


「あ、すまない。エリスチャンが可愛くて、つい……」


「いい加減にしろ。陛下が知ったらタダでは済まされんぞ」


「ハハ、それは困るなぁ……でもタダで済まさないのは国王だけかな?」


 ラジールは意味ありげな笑顔をエドワードに向けた。エドワードは黙って顔を背けた。二人の怪しげな空気に、エリス姿のアイリーンが場をつなげた。


「二人とも仲がいいのか悪いのかわかりませんわね。お二人が国王になったとき、お互いの国の交流が今より発展しそうで、楽しみですわ」


 エリス姿のアイリーンの言葉に、ラジールが何か閃いたらしく得意げな顔をして言った。


「いいこと思いついた!」



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