表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/50

10.理由の知れない胸の苦しみ

 「アイリーン様、爽やかな風が吹いてとても気持ち良いので、テラスでお茶でもいかがですか?」


 エリス姿のアイリーンはアイリーン姿のエリスらしき者に声をかけた。


「ありがとうございます。わたしもお話がしたかったので嬉しいです」


 二人はテラスのテーブルに向かい合わせに座って、お茶を飲んだ。


「アイリーン様、調子はいかがですか?」


「はい、身体の調子は大丈夫です。記憶の方は全然ですが……」


 そう言うとアイリーン姿のエリスらしき者は右手の小指を口元にあてた。


「焦る必要は無いと思います…(今思い出しても混乱するだけよね、元に戻るまではこのままでいてもらいたいわ)大変な思いをされたので、今はゆっくりと静養なさるといいと思います」


 エリス姿のアイリーンがそう言って微笑みかけると、アイリーン姿のエリスらしき者はパッと明るい顔になり嬉しそうに言った。


「ありがとうございます。エドワード様もそのように言ってくださいますので……甘えてばかりで申し訳ないのですが」


「王太子殿下は執務に忙しいでしょうに、毎日来られて。アイリーン様のことがよほど心配なのでしょうね」


 アイリーン姿のエリスらしき者はさらに明るい顔つきになり、はしゃぐように言った。


「はい、朝食は必ず一緒にとってくださいます。わたしのこどもの頃のことやこの国のことなど、色々お話ししてくださり、少しでも自分のことを知ることが出来てありがたいです」


(あー、それはわたくしのことで、あなたにとって偽情報なんですけどね)


「それに……わたしが不安そうにしていると、『大丈夫だ』と言って、手を握り締めてくれたり、そっと抱きしめてくれたりして……」


(まあ、エドワード様ったら!わたくしにはダンス以外で触れたことなどありませんのに)


「いつも優しくしていただいて……婚約者がエドワード様で良かったと心から思います」


 アイリーン姿のエリスらしき者はそう言ったあと、急に暗い顔になり俯いた。


「でも最近とてもお忙しいようで、一緒にいる時間が減って少し寂しいです」


 アイリーン姿のエリスらしき者は右手小指の爪を噛みながら言った。


「王太子殿下のことをお慕いしているのですか?」


「まだよくわからないのですが……たぶんそうだと思います……」


(え、この状況いいのかしら?記憶が戻ったらエリスの気持ちはどうなりますの?記憶が戻らないうちにまた入れ替わったら?……そもそも元に戻れるのかしら?元に戻れなければ、今わたくしの目の前にいるこの方がエドワード様と婚姻を結ぶのよね?)


「いえ、そんなのダメですわ!」


 エリス姿のアイリーンは思わず叫んで席を立ってしまった。


「えっ、わたし、エドワード様をお慕いしてはダメなのですか……?」


「あ、いえ、失礼しました。少し別のことを考えていたのです。婚約者なのだからお慕いしても差し支えありませんわ。ですが、そもそも政略結婚ですので、今までは愛情など二の次だったはず」


「エリス様はお詳しいのですね。あの、わたしとエリス様は仲がとても良かったのですか?」


「え、あ……アイリーン様はわたしのマナーなどの指導係を引き受けてくださってましたの」


「まあ、そうでしたの。ごめんなさい、全く覚えてなくて……」


「いえ、気になさらないで。第二王子殿下もお暇なのか再々来られて、アイリーン様に文句を言って。でも、なかなか楽しい時間でしたわ」


「第二王子殿下……」


 アイリーン姿のエリスらしき者は何か考え込むようにうつむいた。


「何か思い出して?」


「ああ、いえ。何だか胸がザワザワとして……」


(それは王子殿下のことが好きだったから?それとも何か秘密を聞いていたから?どちらにしろ、エリスと王子殿下の間には何かあるような気がするわね)


「ここにいたのか」


 エドワードがテラスに続く入口に立っていた。


「王太子殿下にエリスがご挨拶申し上げます」


 エリス姿のアイリーンが挨拶を告げると、アイリーン姿のエリスは急いでエドワードのそばに行った。


「エドワード様。お仕事がお忙しいのでは?来てくださってわたしは嬉しいのですが、無理はなさらないでください」


「大丈夫だ、無理はしていない。わたしがアイリーンに会いたいのだ。風が冷たくなってきたから部屋へ戻ろう、アイリーン」


 そう言いながらエドワードはアイリーン姿のエリスに手を差し出した。アイリーン姿のエリスは少しはにかみながら、エドワードの手を取った。


「エリス様、お茶楽しかったです。ありがとうございます。お先に失礼しますね」


 エドワードは行きかけて振り返り、エリス姿のアイリーンに言った。


「エリス殿、話したいことがある。後で一緒に執務室に行ってもらえないか?」


「承知致しました」


 エリス姿のアイリーンは会釈をし、二人の後ろ姿を見送りながら、胸が苦しくなるのを感じた。


(どうしたのかしら、なぜこんなにも胸が苦しいの……ああ、もう、苦しい、なんなの!?)


 アイリーンはテラスから庭園につながる階段を降りた。庭園を歩きながら深呼吸をしたり、花を眺めたりした。

 しばらくして胸の痛みが治まった。


(ようやく落ち着いたわ。こんな状態になっている場合ではないのに。早く犯人を見つけないと)


 アイリーンはしばらく庭園を歩いた。歩きながら事件のことを考えていたが、ふとした瞬間に、エドワードがアイリーン姿のエリスらしき者を見つめる顔を思い浮かべては胸が苦しくなった。


(もしかして、エリスは何か病でも抱えているのかしら?心臓?肺?一度医師に診てもらった方がいいかしら?)


次回の投稿は11/15の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ