表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/50

9.疑惑の人たち

 エドワードの執務室に側近と一緒にアーサーが入って来た。

 エドワードは執務机の椅子に座り、エリス姿のアイリーンはその前にあるソファに座っていた。


「兄上、何か用?あ……エリスもいたんだ……」


 アーサーはエリス姿のアイリーンから目を逸らした。


(王子殿下がエリスを見ない……?王子殿下の様子がおかしいわ)


「エリス殿から聞いたのだが、事件があった時、お前が侍女から受け取ってお茶を運んだというのは本当か?」


 アーサーは目を見開いてエリスを見た。


「エリスが喋ったのか?」


(え、どういうこと……?)


 アイリーンは戸惑った。アーサーとエリスの間になにか交わしていたことがあったのかもしれない。アイリーンは少し焦ったが、今は口を閉ざしておこうと思った。エリス姿のアイリーンは黙って視線を横に向けた。

 アーサーはしばらくエリスを見ていたが、長いため息を吐いてから言った。


「ああ、そうだよ、侍女から引き取ってお茶を運んだのは僕。だけど、それだけさ、何も知らない」


「どうして今まで黙っていたんだ!」


 エドワードは立ち上がり、机を拳で叩いて怒鳴った。


「間違いなく僕が疑われると思ったからさ!だってそうだろ、兄上がいなくなって一番得するのはこの僕じゃないか!」


 アーサーも大きな声で対抗した。


「お前は後継者に興味などなかったではないか、誰が疑う?」


「周りはそうは思わない!」


「ではアイリーンがあのまま処刑されてもおまえは平気でいられたのか!」


 アーサーは言葉に詰まった。けっしてアイリーンが処刑されていいだなどと思ってはいない。


「……………」


 エドワードは大きくため息をついた。


「わかった、とりあえず座ってくれ。わたしはおまえを疑っているわけじゃない。お茶を運んでいた侍女のことを聞きたかっただけだ」


 アーサーはエリス姿のアイリーンが座っているソファの、テーブルを挟んだ向かいのソファに座り、首をうなだれた。


「……侍女のことは僕も探した。でも王宮のどこを探しても見つからないんだ……」


 アーサーは首をうなだれまま話した。


「母上にも相談したけど、僕がお茶を運んだことは絶対誰にも口外するなと言われて……だからエリスにも口止めしたんだ、事の真相がはっきりするまで誰にも言わないでくれと……でも喋っちゃたんだね……」


 アーサーはエリス姿のアイリーンの方をチラリと見た。エリスに約束を破られてかなり傷心しているようだった。


「あ、ごめんなさい……」


 アイリーンもなんと言っていいかわからなかった。


「いや、黙っている方が辛かったよね……こちらこそ、ごめん」


 そう言うとアーサーは再び俯いて両手を握りしめた。エドワードはエリスを庇うように言った。


「エリス殿からはアーサーが口止めしたとは聞いていない。すでにおまえがわたしには話しているだろうと思って、侍女がどうなったか、聞いてきただけだ」


「そうなんだ……」


 アーサーは少し微笑んでエリスを見た。


「侍女のことはこちらで調べる。名前はわからないのか?」


「名前は知らない。でも何度か見かけたことはあるから顔は覚えている。何人かの侍女に聞いてみたが、僕の説明では特定することが出来なかった。探しても見つからなっかったから、もう辞めているかもしれない」


「そうか、では事件後に辞めた侍女を調べてみよう」


 エリス姿のアイリーンは今言うべきタイミングだと思い、ブーリン卿のことをそれとなく伝えた。


「あの、それから気になる方が。アイリーン様の取り調べをなさった方も、誰がお茶を運んで来たかアイリーン様からお聞きになってるはずだと思うんです。でもどうして報告されなかったのか……おかしいと思いませんか?」


「アイリーンを取り調べたのはブーリン卿だ。ブーリン卿からは……なぜか事実とは異なる報告を受けている」


 エドワードは眉をしかめ、右手を頭の後ろに置いた。アーサーはその様子を見ながら言った。


「ブーリン卿は母上の親戚にあたる方だ。僕に関わる事だから口止めされていたのかも知れない」


「陛下の側近だからな。ブーリン卿を取り調べ出来ないだろうし、近衛兵団隊長のプライドがあるから、簡単に報告を嘘だとは認めないだろう。とりあえず今日のことは陛下に報告して指示を仰ごう」


「父上に今言うのは時期早々では?ブーリン卿は陛下の信頼も厚いし、母上の親戚、つまりモントロール公爵家の傍系だよ。父上はどっちを信用するか……」


 エドワードは黙って頷いた。


「もう少し調べて確証を得るまでは陛下には黙っておく」


 アーサーも頷いた。


 エリス姿のアイリーンはエドワードの執務室を出て離宮に戻りながら考えた。


(侍女に、ブーリン卿に、側妃様。王子殿下もまだ潔白と決まったわけじゃないわ。王子殿下を後継者に望んでいる貴族のうちの誰かかも知れないし、全員が結託している可能性もあるわね。主犯格と実行犯、協力者。どうやって炙り出しましょうか?)


 アーサーがエリスを追って出て来たが、声をかけることができず、後ろ姿が見えなくなるまで哀しげな表情でじっと見つめていた。


次回の投稿は11/13の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ