9. 謝罪
俺は黙って彼女の言葉を聞いていた。
彼女の表情、声、仕草――どれを取っても、嘘や偽りを感じとることはできなかった。
(俺は、今まで彼女の何を見て来たのだ?)
彼女が魔法使いだというだけで、魔女だと罵り続けた。
どのような魔法なのか、中身を見ようともせず…
今、俺の腕の中で、彼女は弱り切っている。
もう一度、そっと彼女の体を抱き寄せながら、父上が彼女にしようとしたことについて考えた。
(俺は一体、何を信じればいいのだ?)
「父上は…君の魔法を使って、どんな計画を立てていたと思う?」
俺は最大の疑問を彼女に投げかけてみた。
「私には分かりません。ただ、一つ言えることは…
代々この魔法のことは、信頼した者にしか伝えてはいけないと教えられていることです。
みなを幸せにするための魔法ですが、一歩使い方を誤ると、誰か一人が得をして、他の者たちを陥れることも理論上は可能なのではないかと…」
「ではなぜ……その大事な教えに背いて、魔法のことを私に話したのだ?」
「私は…背いてはおりません。レオニス様は…一度は、縁談をお受けしようと思った相手です。信頼していなければ、そのような考えには至りません」
そう言った彼女の瞳には、覚悟の色が見えた。
(そこまで俺のことを…)
「アイリス殿…」
彼女に本性を曝け出してから、俺は初めて彼女の名を呼んだ。
「はい…」
彼女の瞳は涙で潤んでいて、まるで真珠を纏っているかのように美しかった。
(…あぁ、俺は今、ようやく理解した。
彼女の美しさは、魔女の偽りの姿などではない。
彼女の心を映し出す、鏡のようなものなのだったのだ)
本当は分かっていた――彼女の言うことが事実で、父上は、何か良からぬことを企てているのだということを。
まさか、息子の俺をも利用し、彼女の力を手に入れようとしていたことには驚いたが。
「すまなかった…」
俺はそう言うと、彼女の体を、さらに強く、しかし壊れ物を抱きしめるように、そっと抱きしめた。
それは、俺なりの謝罪の言葉だった。
彼女を魔女だと罵り続けた、追い詰め続けたことへの。
アイリス殿は何も言わず、ただ優しい微笑みを浮かべるだけだった。
その笑顔とは裏腹に、彼女は確実に弱ってきている。
(まずいな…どうにかして、彼女には魔力を回復してもらわなければ…)
「アイリス殿…とにかく、今はしばらく休まれるべきだ」
そう言って、彼女をベッドに運び、髪をそっと撫でた。
(大丈夫…、彼女はきっとすぐに回復する!)