7. 二人の本心
目を覚ますと、私はレオニス様の腕の中にいた。
なぜ…?必死で、最後の記憶をたぐり寄せる。
(私が、近くにいてほしいとお願いしたから…!)
「…レオニス様……」
「目が覚めたのか?気分はどうだ」
そう言う彼は、私の目を見ようとはしない。
(なぜ……このお方は一体、何を考えているの?優しく抱きかかえてくれていると思ったら、今度は目も合わせてくれない)
ぃゃ…っと小さく呟くと、手で彼を押し、体を遠ざけようと試みたが、彼の体は1ミリたりとも動かなかった。
「勘違いをするな。朦朧としたお前が離さないから…仕方なく、こうしていただけだ」
(そうでしょうとも。目を合わすことですら、嫌で仕方のない相手なのですものね!)
そう叫びたいのを、喉元で堪えて、私はある質問をした。
「あなたは、なぜ…私と夫婦になろうと思われたのですか?」
これは、私がずっと心に抱えていた疑問だった。
無口で無愛想ながら、誠実だと思えた。あの王子は仮の姿で、ここでの彼が、彼の本心であり、素なのだと気がついた時から、ずっと不思議に思っていたこと。
「なぜ…?その質問の意図が解せぬな。陛下がお前を娶るよう命じたので、それに従おうとしたまでだ」
きっと、彼に自分の意思はない。彼を信じようと思った自分が間違いだった。
「いくら陛下からの命令だとしても、これから一生を共に生きていく伴侶なのですよ?そこにあなたの意思や、将来への希望はないのですか?」
「ふっ…馬鹿らしい。お前は政略結婚の意味を知らぬのか?それとも、お姫様とは総じて結婚に夢を見る生き物だと言うのか?お気楽で何よりだ」
「レオニス様…!先ほどから、なぜ私の目を見てくださらないのです!
なぜ……そこまで私を毛嫌いするのに、こうやって抱きかかえたりして優しさを見せるのです!」
ついに私の口から、本心が溢れ出す。
「私は……私はっ…!エレドーラの姫としてではなく…一人の女性として……誠実なあなたとなら…共に歩んで行きたいと…」
自然と涙が溢れ出す。
「では…お前こそ!なぜヴァルトリアから…俺の元から離れようとしたのだ!」
そこで彼の鋭い視線が、私の目を真っ直ぐに捉えた。
「自分の言っていることが支離滅裂だと気付かぬのか?」
語気は強いが、彼の手は未だに私の体を優しく抱きかかえていた。
「自分から離れて行ったと思ったら、今度は側にいてくれと懇願し……更には、共に歩んでいきたいなどと戯言を!そうやって、お前は今まで何人の男を誑かしてきたのだ!」
(ひどい…!私のことを、そんな風に見ていたなんて!)
窓の外では、物質が存在するはずもないのに、まるで混沌が渦を巻くように、何かが無秩序に入り乱れ、とてつもない嵐が来ているようだった。
そして私は、あの日見た光景を…彼の父、ヘラルド皇帝陛下の裏の顔を、包み隠さず伝える決心をした。