闇夜の道しるべ
儀式の夜の、レオニスの大胆な一手は、国王の逆鱗に触れた。
城に戻るや否や、レオニスは父の執務室に呼び出され、私は侍女たちによって、今まで以上に厳重な、離宮の最も奥まった一室へと移された。
扉の前には、国王直属の近衛兵が二人、常に立っている。
レオニスからの便りも、完全に途絶えた。
(レオニス…)
彼が、王から厳しい罰を受けているであろうことは、想像に難くない。
自分の行動が、彼をさらに追い詰めてしまったのではないか。
不安と孤独が、再び心を覆い始める。
そんな絶望の夜が、数日続いた頃。
その夜は、一段と月が美しい晩だった。
部屋で一人、眠れずにいると、扉が、音もなく、本当にごくわずかに開いた。
入ってきたのは、リリアだった。
彼女は、強い意志を宿した瞳で、私に手招きをした。
「アイリス様、こちらへ。王子殿下がお待ちです」
「…え!?でも、見張りの兵は…」
「今夜、この時間だけ。扉の外におりますのは、殿下を支持する者たちです。彼らが、見ないふりをしてくださる、ほんのわずかな時間しかありません。さあ、早く!」
リリアに手を引かれ、私は息を殺して部屋を抜け出した。
扉の前には、二人の近衛兵が、まるで石像のように、まっすぐ前を向いたまま微動だにしていない。彼らは、私たちが見えていないかのように、その存在を黙殺してくれているのだ。
彼らもまた、命がけの覚悟で、ここに立っている。
私たちは、壁のタペストリーの裏に隠された、冷たく湿った石の通路へと足を踏み入れた。
どこへ続くとも知れない、暗い隠し通路。
時折、壁の向こうから、別の場所を巡回する兵士たちの話し声が聞こえてきて、そのたびに心臓が凍りつきそうになる。
「…大丈夫です。この先の通路は、アラン様たちが警備の目を逸らしてくださっています」
リリアの言葉だけが、頼りだった。
どれくらい歩いただろうか。
やがて、リリアは一つの扉の前で足を止め、私にだけ聞こえる声で囁いた。
「…私は、ここまでです。どうか、ご無事で。交代の兵が来る前に、必ずお戻りください」
そう言って、彼女は、来た道を引き返していく。