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偽りの魔女に、誓いの口づけを~この魔法、敵国の思い通りにはさせません!  作者: 咲夜
第二章:聖女と呼ばれた姫と、王子の覚悟
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黒騎士の決意

月明かりだけが頼りの夜道を、一頭の馬が疾風のように駆け抜けていく。

乗り手は、黒髪の騎士アランだ。


彼は、レオニス王子から託された密書を胸に、東のオルデン公爵領を目指していた。


(急がねば。そして、最後まで誰にも見つかるわけにはいかない…)


アランの脳裏に、数日前の主君との会話が蘇る。







「…分かった。お前のせいではない、アラン。全ては、俺が甘かったからだ」


「アラン。お前には、このナイトのように、俺の手足となって、盤面の外を駆けてもらう」


「オルデン公に、俺からの密書を届けてほしい。誰にも気づかれぬよう、お前自身の手で。…彼が俺たちのビショップになってくれるかどうか、確かめてきてくれ」







(殿下は、俺を信じてくださった…)


アランは、唇を強く噛みしめた。

アイリス様を守るべく、お連れした教会でのこと。

殿下は、俺がアイリス様を引き渡した状況について、それ以上何も問わなかった。

だが、あの聡明な主君が、何も疑問に思わなかったはずがない。


それでも、俺を信じ、この国の未来を左右する密命を託してくれたのだ。


(なんとしても、俺はその信頼に、応えなければ…!)


実はあの時、俺は絶望的な状況で、一つの賭けに出ていた。

教会を包囲した近衛騎士団の隊長は、幸いにも、先代王妃に恩義を感じている、話の分かる男だった。

俺は、抵抗して犬死にする代わりに、彼と密約を交わしたのだ。


「アイリス様の身の安全と、丁重な扱いを約束するならば、抵抗はしない」と。


近衛騎士団と共に行動することで、彼は自分の目で、アイリス様が丁重に城へ「保護」されるのを見届けた。

それが、あの状況で唯一の最善策だと判断したのだ。


しかし、そんな内情を、殿下に話すことはできない。 

それは、言い訳がましく聞こえるだろう。

騎士は、結果が全て。アイリス様を守れなかったという事実は、どうやっても覆らない。


ならば、行動で示すしかない。

この密命を、完璧に成し遂げることで。







しばらくののち、アランはオルデン公の城館に無事にたどり着いた。


オルデン公は、年の頃は五十代。すでに隠居の身でありながら、その瞳には、今も鋭い知性の光が宿っていた。


妹である、先代王妃によく似た、穏やかな雰囲気も持ち合わせている。


「…レオニス王子殿下からの、密書だと?」


アランから手紙を受け取ったオルデン公は、眉をひそめた。


彼は、現国王のやり方を嫌い、長年、中央の政治から距離を置いていた。

今更、その息子からの手紙に、どんな意味があるというのか。


しかし、手紙を読み進めるうちに、彼の表情は驚きに、そしてやがて、深い悲しみに変わっていった。

そこには、レオニスが知った、国王の非道な計画の全てと、アイリスという姫の存在、そして、国の未来を憂う、甥の悲痛な覚悟が綴られていた。


「ヘラルド国王陛下は、そこまで道を違えられてしまわれたか…」


オルデン公は、静かに目を閉じた。

その脳裏に、優しかった妹の面影が蘇る。


「騎士アランよ。王子殿下に、こう伝えよ」


彼は、ゆっくりと目を開くと、力強い声で言った。

「この老骨、まだ国のために使い道があるのならば、喜んで甥の力になろう、と。オルデン公爵家は、レオニス殿下を、次代の王として支持する、とな!」


その言葉を聞いた瞬間、アランは、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じた。


(殿下…やりました!)


殿下にとって、最初の、そして最も強力な味方が、今、ここに生まれたのだ。

自分の働きが、確かに、主君の力になった。その事実が、何よりの喜びだった。


夜明けは、まだ遠い。

しかし、暗闇の中を照らす、確かな松明(たいまつ)は、今、この手に灯されたのだ。


アランは、オルデン公に深々と頭を下げると、その吉報を届けるため、再び、闇夜の道へと、その身を投じた。

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