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偽りの魔女に、誓いの口づけを~この魔法、敵国の思い通りにはさせません!  作者: 咲夜
第二章:聖女と呼ばれた姫と、王子の覚悟
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王子の帰還と、父の罠

アランにアイリスを託し、俺は一人、夜陰に紛れてヴァルトリア城へと帰還した。


最後にこの城門をくぐったのは、アストライアの姫を捕らえるための駒として出陣した時。

今、俺が胸に抱くのは、全く逆の、姫を…アイリスを守り抜くという固い決意だ。


父、国王陛下への謁見は、すぐに叶えられた。

玉座の間に通された俺を待っていたのは、驚きでも、喜びでもなく、全てを見透かしたような父の冷たい視線だった。


「…戻ったか、レオニス」

「はい、陛下」


俺は片膝をつき、臣下の礼を取る。

だが、その瞳は、まっすぐに父の顔を見据えていた。


「して、アストライアの魔女はどうした。生け捕りにせよとの命令であったが」

「…逃げられました。私の力が及ばず、申し訳ありません」


生まれて初めて、俺は父に対して、明確な嘘をついた。

心臓が嫌な音を立てるが、表情には出さない。アイリスを匿う時間を、一秒でも稼がなければ。


父は、俺の嘘を意にも介さない様子で、玉座の上から俺を見下ろしている。

「そうか。…まあ、良い」

「…?」


「どちらにせよ、時間の問題であったからな」

父は、まるで詰みの見えた盤面を眺めるかのように、満足げに口の端を吊り上げた。

その時、玉座の間の扉が開き、一人の伝令兵が駆け込んできた。


「ご報告します!王都近郊の監視部隊より伝令!アストライアの姫と思われる人物を、古い修道院にて発見、保護いたしました!」


「…なっ!?」

俺は、思わず立ち上がっていた。

馬鹿な、アランがアイリスを連れて、まだ一刻も経っていないはずだ!


父王が、楽しそうに喉を鳴らした。

「ご苦労だったな、レオニス。お前が姫を追い立ててくれたおかげで、こちらの網にもかかりやすくなったというものだ」


罠。

最初から、俺の追跡すらも、父の描いた盤上の駒の一つに過ぎなかったのだ。


「陛下…!一体、何を…!」

「決まっておろう。ようやく手に入れたのだ。我が国の至宝を」


父は立ち上がると、高らかに宣言した。

「直ちに、アストライアの姫を『聖女』として丁重に城へお迎えしろ!そして、王子帰還の報せと共に、王国中に布告せよ!『我が息子レオニスが、神々の啓示を受け、国を救う聖女を連れ帰った』とな!」


俺は、そのあまりに狡猾な策略に、戦慄した。

アイリスを「魔女」ではなく「聖女」として祭り上げ、民衆の熱狂と信仰という、神聖な檻に閉じ込めるつもりだ。


俺は、父の本当の恐ろしさを、まだ何も理解していなかったのだ。

アイリスの仮説が真実かどうかを確かめる以前に、俺は彼女と、完全に引き裂かれてしまった。


玉座の間から下がる俺の背中に、父の満足げな声が突き刺さる。

その声は、もう俺の耳には届いていなかった。

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