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偽りの魔女に、誓いの口づけを~この魔法、敵国の思い通りにはさせません!  作者: 咲夜
第二章:聖女と呼ばれた姫と、王子の覚悟
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引き離された二人

私たちが転移したのは、ヴァルトリアの城から少し離れた森の中だった。あの日、私が転移魔法のために逃げ込んだ森だ。


不思議なことに、今はこうして、彼と手を取り合い、二人で並んでいる。


「…帰ってきたんだな」

レオニスの呟きには、安堵よりも、これから始まる戦いへの覚悟が滲んでいた。


「どうするの?このまま城へ?」

「ああ。だが、その前にやるべきことがある」


彼は、私の手を固く握りしめた。

「城に戻れば、俺たちはすぐに引き離されるだろう。獅子の魂の話が本当なら、あの父上が、君をやすやすと俺の傍に置いておくはずがない。だから、その前に…」


レオニスは、懐から小さな紋章の入った笛を取り出し、夜空に向かって短く吹いた。


「…信頼できる部下がいる。彼に君を託し、安全な場所へ匿ってもらう。俺は一人で城へ戻り、父上と対峙し、そして俺たちの血の秘密を確かめる」


「私も一緒に行かせて!」


「それはダメだっ!」


彼の、覚悟が詰まった声に、私は言葉を失った。


「君は、俺の最後の切り札なんだ。そして何より…君を危険な目に遭わせたくない。頼む、アイリス。俺を信じて、待っていてくれ」


その、必死な瞳に、私は頷くことしかできなかった。


しばらくして、闇の中から一人の騎士が姿を現した。

実直そうな顔立ちに、短く刈り揃えられた黒髪の騎士――アランだった。


「殿下…ご無事でしたか!それに、その方は…アストライアの…」


「アラン。詳しい話は後だ。頼みがある。彼女を、誰にも知られぬよう保護してくれ。」


レオニスの、王としての命令。

アランは一瞬、何かをためらうように視線をさまよわせた。そして、私とレオニスの顔を交互に見ると、まるで何かを諦めたかのように、静かに、そして深く息を吐いた。

「…御意に」

言葉とは裏腹に、アランは納得していない様子だった。状況がつかめない中、彼もきっと不安なんだろう。


こうして、私は再びレオニスと離れ離れになった。


アランに連れられて身を隠したのは、王都の城壁のすぐ外にある教会だった。

息を切らしながら、アランは私を奥の小さな部屋へ案内した。


「アイリス様、どうかここでお待ちください。殿下は必ずや、事を成し遂げられます」


彼はそう言うと、部屋の扉に、外からカチャンとかんぬきをかける音がした。

(…え?なぜ、外から鍵を…?)

私を保護するためだとは分かっていても、胸騒ぎが止まらない。







私が部屋で一人になってから、一刻も経っていなかっただろうか。

外が、急に騒がしくなった。複数の足音、鎧の擦れる音。


バタン!と、私の部屋の扉が乱暴に開け放たれた。

そこに立っていたのは、国王直属の近衛騎士たちだった。


そして、その騎士たちの後ろに、静かに佇んでいるアランの姿もある。


彼は、私と目を合わせると、静かに、そして深々と頭を下げた。

それは、謝罪のようにも見えた。


「…アストライアの姫君ですな。ご同行願います」


私の脳裏に、アランの諦めたようなため息、外からかけられた閂、そして、今目の前で頭を下げる、彼の姿が焼き付く。


信じたくない。けれど、状況は、たった一つの残酷な真実を示していた。


私は、為す術もなく、騎士たちに連行された。

その間、アランは一言も発さず、ただ道を開けるだけだった。


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