番外編3 王家のバラの受け取り人
ちょうど三人が沈黙していた所に、ユトンがやって来た。
日に当たる金髪は、今日もキラキラ輝いて、ルイネには、世界一かっこよく見えた。
服装は、二人が初めて出会った日と同じ、青シャツにグレーのジーンズだった。
「その服」
言い掛けたルイネを遮って、ユトンが、不機嫌な顔つきで、リベールを睨んだ。
「墓地なんかでピクニックするから、そんな顔になるんだ。さっさと屋敷に戻れ」
「ああ、ユトン!いい時に来てくれたね。実は、ルルの彼氏が、ヤンデレ化して困ってるんだ。何とかしてくれない?」
早速、無茶難題を吹っかけられて、ユトンは即答した。
「断る。氏神さまにでも祈れ」
他人事のように言うと、かわいい婚約者に思い切り睨まれた。
「リーシャに頼んで、胸キュンの呪文を相手にかければいい。誰か、人形でいいな。恋をさせれば解決だ」
ユトンは、慌ててフォローしたが、これを聞いて、ルイネは、ぽかんとした。
その一方で、ルルは、ルビーのように赤い吊り目を輝かせた。
「それ、いいですね!」
「うっわ~、非道だねえ。一生、人形に恋させるなんてさあ。君、僕に似てきたね。一応は、血が繋がってるからさあ」
リベールが、面白おかしく批判すると、すぐさまルルが反論した。
「どの口が言いますか!先日の悪事を忘れたとは言わせませんよ!ルイネちゃんを騙して、王家のバラを受け取らせたでしょう?」
眉を吊り上げるルルを見て、リベールは、居心地悪そうに首をすくめた。
「でも、ほら、丸く収まったじゃない。ルイネちゃんも、もう怒ってないし。ね?」
同意を求められて、ルイネは、そっぽを向いた。
「え、まだ怒ってた?」
焦り始めた義兄を見て、ユトンが大きく溜息を吐いた。
「あの時、気付けなかった俺も悪い。言い訳になるが、ルイネから『王家のバラが欲しい、覚悟はもう決まってる』と言われたのが嬉しくて浮かれた。年甲斐もなく、のぼせあがって、ちゃんと確認しなかった。『受け取る意味は聞きました。私の心は決まっています』なんて言われた時に、おかしいと気付くべきだった」
「王子は悪くありません!!」
ルルが急いで否定して、リベールを指差した。
「全部、この腹黒王太子が、悪いんです!!ルイネちゃんに、『君が王家のバラを受け取ってくれたら、ユトンは、あの、虹の指輪はいらなくなるんだ。シナリオ改変の前に、呪いがとけるんだよ。お姫様の愛でね』なんて真剣に言うから!!ルイネちゃんは、すっかり信じて。あなたのせいで、ルイネちゃんは、もう二度と元の世界に戻れなくなったんですからね!!」
肩を怒らすレンタル悪役令嬢は、本物の悪役令嬢なみの迫力があった。
しかし、腹黒王太子は、全く反省の色がなく、それどころか、にんまり笑った。
「あ、それね。シナリオが改変したら、王家のバラ設定が無くなるから、元の世界に帰れない設定も無くなるらしいよ~よかったね~」
「えっ!?」
三人とも驚愕して顔を見交わせた。
それから、ルルとルイネは、両手を合わせて大喜びした。
ユトンも、罪悪感が一気に消えて素直に喜べた。
両親、友人に会えなくなった悲しみを、ルイネが必死に押し殺しているのは知っていた。
時折見せる悲し気な表情が、これで消えるのだから、これほど嬉しいことはない。
「ね?ハッピーエンドでしょ?」
満足げにウインクする腹黒王太子が、その上とんでもない提案をした。
「ルル、君には、僕から王家のバラを送るよ。最高の溺愛ルートだ!これで、公爵子爵に、グッバイだよ。シナリオが改変したら、バラの魔法も消えるんだから。僕の傍にいなくていい。どう?」
ルルとルイネは、最初、目を丸くして戸惑ったように視線を交えた。
しかし、段々と、この提案が、素晴らしいものに思え始めた。
「悪くないですね」
ルルが、こくりと頷いた。
この一言を、後悔する嵌めになるとは、思わなかった。
ルイネとユトンも、腹黒王太子が、本気になっているだなんて、想像もしなかった。
リベールの腹の中では、既に計画が、始まっていたのだ。
「じゃあ、明日、早速、持って来るからね」
その晩、リベールは、保持妖怪の双子の片割れ、四羽に連絡を取った。
入手済みの通信鏡で、リベールは、話した。
「上手くいったよ、四羽。ルルが、王家のバラを受け取ってくれる事になったんだ。思わぬ方法で、成功したよ。後は、ルルを想う十五人の公爵子息から、ルルに関する記憶を完全に消して欲しい」
「分かった。先月は、世話になったから、滞りなく終わらせる」
「じゃあ、よろしくね」
通信鏡を切った後、リベールは、不敵な笑みを浮かべて、呟いた。
「念には念を入れて、虹の魔女さまに薬を貰いに行こう。今日は、占い師レニールの姿で、あっちの世界にいるから」




