第八話:運命を穿つ弾丸
「……今だ、あの子を!」
アレックスの声が背中を押した。
美秀は迷いを振り切るように走り出した。
目の前に広がる黒いモヤ。
まるで意思を持つかのように、美秀の進行を拒む壁。
(……怖い)
美秀の胸が締めつけられる。
足が止まりそうになる。
だが、その時だった。
「約束したよね……」
あの少年の声が、確かに耳元で囁いた。
「……そうだ、約束したんだ……」
震える手が、ゴールドメイデンのホルスターに触れる。
ただの御守りのように持っていたこの銃。
でも、違う。
これはただの銃じゃない。
(ゴールドメイデン......)
ふいに、胸の奥に何かが響いた。
(この力……私はまだ、本当の意味で使い方を知らない。
でも、感じる。
きっと、これは運命を撃ち抜くためのものだ……)
美秀の目がゆっくりと開かれる。
まるで視界が広がるように、黒いモヤの奥に、絡みつく因果の糸が見えた。
(あれが……呪いの核)
美秀は小さく息を呑んだ。
理解するより先に、身体がそれを知っていた。
「……わかった。
撃つべきは、そこなんだ」
美秀は静かに呟き、ゴールドメイデンを構える。
心の中に、自然と言葉が浮かぶ。
「私の能力は……因果を撃ち抜く力。
ならば、あの子を縛る因果ごと……撃ち抜く!」
強く、強く引き金に指をかける。
脳裏に浮かぶのは、少年のあの儚げな笑顔。
(絶対、助ける。
約束したんだから)
美秀は一歩、踏み出した。
「ゴールドメイデン……お願い。
私に力を貸して!」
トリガーを引いた瞬間、黄金の光が迸る。
眩い光は一直線に黒いモヤを貫き、因果の糸を焼き切っていく。
「なっ……!?
その弾は……!」
イクリプスレイスの叫びなど、もう耳に入らない。
黄金の弾丸は狙い違わず呪いの核へと命中した。
世界が一瞬、静止する。
そして、音もなく、黒いモヤが崩れ落ちる。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「っ……!」
少年の瞳に、光が戻った。
美秀は駆け寄り、震える手でその腕を掴む。
「……もう大丈夫。
絶対に、誰にも奪わせない」
少年は、美秀の顔を見上げ、ぽつりと呟いた。
「……ありがとう。
来てくれたんだね」
美秀は微笑んだ。
そして、確信した。
(私は、この力で誰かの運命を救える。
これは、私の力だ)
その後ろで、イクリプスレイスが膝をつく。
「因果の核を……見抜いて撃ち抜くなんて……何者だ、お前は……!」
美秀は振り返り、ゴールドメイデンを下ろした。
「もう終わり。
私はあの子を連れて帰る。
それが……私の選んだ未来」
そして、美秀は少年の手をしっかりと握る。
「……帰ろう」
少年の手は、今度こそ確かに、美秀の手を握り返した。