表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第二話:異邦の交渉人

 美秀は異様な空気に満ちた廊下を、慎重に歩いていた。

 ふと、背後から世界がねじれたような感覚に襲われる。


「……違う。

さっきまでの家と……何かが違う」


 天井や壁が微かに波打ち、空間が歪んでいる。

 そのときだった。


「おっと、そこまでだ。

悪いが、それ以上進まない方がいい」


 突如、背後から男の声がした。

 美秀が振り返ると、薄汚れたスーツに身を包んだ、長身の男が立っていた。

 手にはドーナツ、もう片方の腕は銀色の液体のように揺らめいていた。


「……あんた、誰?」

「私はアレックス・エリダヌス。

職業はネゴシエーター、交渉人だ」

「交渉人が、こんな場所で何してるの」


 アレックスはドーナツを口に放り込み、苦笑した。

 そして、ポケットから1枚の依頼書を取り出して見せる。


「依頼されてね。

ここの悪霊と交渉しに来た、が……どうやら、すでに決裂ってわけだ」


 その瞬間、アレックスの背後から黒い影が伸びてくる。


「下がっていろ、お嬢さん。

これは私の仕事だ」


 アレックスは息を吸い込むと、ボソリと呟いた。


「......ハウ、行くぞ」


 呼応するように、銀色の液体がアレックスの身体を覆いはじめる。

 それはハウ。

 彼に寄生する異星生命体だった


(アレックス、またエネルギーが減ってる。

戦うと倒れるよ?)

「……問題ない。

終わったらまたドーナツを食べる」


 黒い影が一斉にアレックスへと襲い掛かる。

 だが、ハウが形成した銀の鎧がその全てを弾き返した。


「……なに、それ」


 美秀は思わず呟いた。

 アレックスは苦笑する。


「交渉決裂した際の最後の手段だ」


 そのままアレックスは、美秀の方へ顔を向ける。


「で?

何しに来た、こんな所に。

普通の人間が無事でいられる場所じゃない」

「……人を、探してるの」


 美秀の声に、アレックスは一瞬だけ目を細めた。


「……そうか。

だが、ここは危険だ。

引き返した方がいい」

「嫌よ」


 美秀は真っ直ぐにアレックスを見返した。


「私は必ず、あの子を見つける。

誰にも邪魔はさせない」


 その瞳に、アレックスは微かに口角を上げる。

 傍らのハウが囁いた。


(アレックス……あの子、多分、普通じゃない)

「わかってるさ。

でも関係ない。

私は私の仕事をするだけだ、プロとして」


 アレックスは改めて美秀を見据える。


「利害は一致してる。

行くなら一緒に来い。

ただし、交渉が始まったら手を出すな」


 美秀は一瞬迷ったが、頷いた。


「いいわ。

でも、もしあんたが失敗したら……」

「その時は、私が何とかしよう」


 銀色の鎧が光を反射し、不気味な屋敷の廊下を照らす。

 こうして、交渉人と少女の奇妙な探索が始まった。

 誰も知らない、この屋敷の奥底へと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ