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第一話:悪霊の家

 夜の街を抜け、美秀は目的の場所へと辿り着いた。

 住宅街の外れ。

 街の誰もが語りたがらない、あの家が、目の前にそびえ立っている。


「……ここ、なんだね」


 街灯の光さえ届かない、朽ちた洋館。

 窓は全て黒く閉ざされ、まるでこの世のものではないようにそこに存在していた。

 あの子は、この家に入った。

 そう、誰かが言っていた。

 その言葉が、どうしても耳から離れなかった。


「本当に、ここで......」


 呟いた言葉は、途中で喉に詰まった。

 理屈じゃない。

 ただ立っているだけで、肌を刺すような悪意が漂っていた。

 美秀はホルスターに手を添える。

 そこにあるのは、因果律を操る神具、ゴールドメイデン。

 どんな理不尽な運命すら、撃ち抜くための力だ。


(大丈夫。

いざとなったら、これで……。

でも、あの子を見捨てるわけにはいかない)


 覚悟を決め、重たい鉄の門を押し開けた。

 きぃ、と鈍い音が響く。

 まるで戻るなとでも言いたげだった。


「……よし」


 美秀は一歩、敷地に足を踏み入れる。

 その瞬間、まるで空気が変わったかのように世界が沈黙する。

 風は止み、街の喧騒も、夜の虫の声さえ遠のいていく。


(もう、戻れない……そんな気がする......)


 美秀は深呼吸ひとつ、ゆっくりと玄関へ向かい、扉に手をかける。

 古びた木の扉は、拍子抜けするほどあっさりと開いた。


「……失礼します」


 誰に向けた挨拶なのか、自分でもわからない。

 けれど、それでも声に出さずにはいられなかった。

 屋敷の中は、想像していた以上に綺麗だった。

 埃はあるが、朽ち果てた印象はない。

 むしろ、ついさっきまで誰かがいたかのような、生々しい気配すら残っている。


「誰も……いない」


 それが余計に、不気味だった。

 美秀は耳を澄ます。

 コツ......コツ……。

 廊下の奥から、規則的な靴音が響く。

 息を呑む。

 確かに誰かが、そこにいる。


「誰か、いる……?」


 美秀はゴールドメイデンにはまだ手をかけず、慎重に奥へ進む。


(あの子かもしれない。

まだ敵と決まったわけじゃない)


 進んだ先。

 廊下の壁に、びっしりと古びた写真が飾られていた。

 どれも、幸せそうな家族写真。

 だが、どれも色褪せ、顔だけが不自然に滲んでいた。


「ちょっと、不気味かも......」


 ざわり、と背筋を冷たいものが撫でる。

 その時。


「クス……クス……」


 誰かの笑い声が、耳元で響いた。

 振り返る。

 だが、誰もいない。


「やっぱり……普通の家じゃない」


 美秀は覚悟を決め、ホルスターに指をかける。


「……出てきなさい」


 低く絞り出した声に応じるように、壁の向こうからそれは現れた。

 滲むように、影が現れる。

 あの公園で見た少年に、よく似た後ろ姿。

 けれど、美秀の本能が告げていた。


「……あれは違う」


 確かに似ている。

 けれど、それは何かが形を真似ただけ。


「返して。

……あの子はどこ?」


 影は答えない。

 それでも、美秀は迷わず一歩踏み出した。


「必ず、見つける。

どんな闇の中にいようと、連れ戻す。

......絶対に」


 その瞬間、美秀の瞳に迷いはなかった。

 そしてその声は、静かに、けれど確かに屋敷の闇に響いた。


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