07その後彼らは親族に詰られたとか
ディアドアと祭典に参加した後の話。例のバカップルはどうやら、赤っ恥をかいたとすごすごその後帰っていったと、風の噂で知る。あの時のことを思い出しても、笑えてくる。
呑気に祭典に参加していたことを、親族たちに怒られてしまったらしい。確かにね。周りに出るなとか言われたはずだし。
ファルミリアならば出ることをしないのだが、あの二人は何食わぬ顔をして出ていた。
そういうところが、身内を災難にするのだろう。ただでさえ、薬が手に入らなかったと責められて凄く憔悴しているらしいし。あの二人から全ては始まっている。
窓から空を見ていると、後ろから温かな腕が降りてくる。抱き止められながら、テーブルにこつりと置かれるコップ。
温かいみたいで湯気がたゆたっている。おいしそうな香りもして、鼻を動かした。
「なにか考えごとか?」
聞くことをしようとそばに寄ったのだろう。
「うん。ツガイってなんだろうって考えてる」
「それはなんとも哲学的だな」
なかなか知的なことを言ってくれる。これは会話の始めの合図みたいなものだ。
「哲学的だって出てくる方も方だと思うけど」
ディアドアは難しそうに考えてからこちらをチラッとみて、八重歯を見せつつ笑みを被弾させてくる。彼の顔に弱い自分には大ダメージだ。
彼は冒険者なのに肌がツルツルで、何度か触ったけど、悔しくなるだけで終わる。男の肌について語るファルミリアを、苦笑してみるのも毎度のことになりつつある。
ディアドアはコップをファルミリアの手に握らせた。
ファルミリアはそれをありがたく飲む。やはりおいしかった。彼が入れてくれる飲み物はどれもおいしい。
ファルミリア専用のカフェラテの店員のようだ。彼と目を合わせると、瞳が澄んでいて優しい色合いが見える。元婚約者の瞳の色なんて、もう覚えていない。
それくらい、彼に夢中だった。彼はツガイについてファルミリアと議論してくれる。とても良い人。
ツガイはやはり苦手だったが、彼となら幸せになれる、と思わせてくれる。ツガイについての議論だが、彼のほうの議論が気になる。
ファルミリアの方が偏見が入っているから。平等に言い合うには、ファルミリアの意見は意味があまりない。
彼の方が、そちらについて冷静に話せるだろう。
「どういうところが知りたい?」
「そんなふうに質問されると、逆にわからない」
ツガイについては初心者なので。彼は意地悪そうに笑うと、さらに腕の力を強めてファルミリアにキスをくれた。
「おれを見ていればわかる。おれが徹底解剖の本みたいなものだ。お前が、好きで好きでたまらないって顔をしているから一発でわかるだろ」
溶けそうな温度を発する男の言葉に釣られて顔が赤くなったり、耳が焼けそうなくらい熱くなっていく。人たらしなのかな。
ファルミリアはディアドアの甘さが日に日に増していくのを常々実感させていく。彼はなにも隠さない。
「なんで番は互いをよく想いやすいのかは、研究されてるのかな?」
「まあ、憶測ならたくさんあるらしい」
「それなら、はっきりとした理由はまだ解明できてない感じ?」
「ああ。第六感的なものだから、解明も夢のまた夢だと思うぞ」
ディアドアはファルミリアの頬を撫で摩りながら、甘えるように頭を預けてきた。
わっしゃわっしゃと撫でる。
「撫で方に野生みを感じるぞ」
「頭を撫でてる時点で人間扱いは受けてないような」
笑って指摘すると彼は眉根をへの字にさせて、それもそうかと頷いた。
「今日はアップルティー狩りだ」
「アップル狩りじゃなくてアップルティーなんて、不思議」
そうか?と首を傾げる彼にはその摩訶不思議さは共有できなさそうだなぁ、と口元を緩めた。なんでも、ティーパックが木にぶら下がっているらしい。
とても良い香りがする。そのまま入れれば飲めるのだ。おまけに値段によって、ブランド品か量産品コースに分かれているのだとか。
この世界は、ファルミリアの知る世界とは違い魔法がある。冒険者という違いもあるが、そんなのは日常的に気にしたことなどなかった。
生きているうちに不思議に思わなくなったのだ。自分も異世界に慣れたなと、嬉しくなった。
好きな人がいて、いつでも話を聞いてくれて、幸せすぎる。ディアドアは瞳をこちらに向けたまま、次はなにを考えているのだと囁いた。
それに対して彼へ笑みを向けて、ファルミリアは相手の体温を感じながら話しかけた。




