05番達の祭典
周りの人達にも、ツガイ関連で散々なことを言われて害されたと言ったら、同情された。つがいを持つ人達にもだ。非常識極まりない事を更にしたのだから、余計に周りの目もキツくなる。
弁護士にも頼んで今回の事を伝え、あのつがい夫婦を訴える旨を説明すると快くやってくれた。わたしの母のツテを使った。こう言う時、ツテっていうのは便利だよ。と言う感じのことをディアドアにも話した。
「そいつ、許せないな」
言葉よりも強めな殺意が目から溢れている。
「もう既に制裁は決まってるので、後は待ちなんですよね」
証拠どっさりだもん。それにしても婚姻届が受理されないとはどういうことだろうか。疑問を提示したら、ディアドアは破局した際の揉め事が原因なのではないかと言う。
ツガイの法は、昔昔にトラブルが絶えなかった時に作られた。法を作ったのになぜ揉め事になったのか?調査されちゃったんだよ。そして、真実が晒された。
結婚できるような背景じゃねえだろっ、て却下され続けているらしい。
「良かったな。平和に済んで。おれなら相手共々病院行きだ」
舐められたくないからな、とニヒルな顔をされてキュンとした。ツガイの男の人にときめくなど。元婚約者には一切感じなかった淡い気持ちに胸がドキドキ。
そう思えば、元婚約者への想いは家族愛だったのかも。でも、わたしは一切不貞もしてないし、不実な真似もしてない。不安の種さえ蒔いてない。切実で普通の婚約者だ。
それに対してあの男と言えば、結婚秒読みだったのに、ツガイだというだけでなりふり構わずツガイ相手に告白して。それだけに飽き足らず、現在しっかり婚約者だった己の悪口を述べた。
(わたしは、話し合いをしようとしたのに)
法律でも解決方法を提示してあり、円満であれと書かれている。末端の村にまで周知されていることを破った。契約書はなかったが、村の中では公認であったわたしを婚約者ではないと罵る。
あり得ないくらいの暴挙。常識を外れた奴らは、その類の扱いをされるのは当たり前。この世界は前の世界とは違い、法律だけが非常に整っている。
強烈だなぁと思う。わたしにとっては助っ人以上。法律を味方につけている限り、あいつらはわたしに近寄って来れない。女はなぜか変則的にのこのこ来たけど。ざまあの如く。
にこにこと顔も動くってわけ。ディアドアはそんなわたしを見て、幻滅することもなく優しい瞳で見てくる。普通、他人の不幸を喜ぶと嫌がるんだろうが、これもツガイの特性なのだろうか。
ファルミリアは、あの女の悔しがる顔を思い出してはほくそ笑むという、楽しい時間に変換していた。
「つがいか」
思っていたのと、違う。
「もっと、なりふり構わず……になると」
(元婚約者達みたいに、周りが一切見えなくなるのかと)
割と冷静なのだ。呟きで察した彼は呆れた声音で述べた。
「それは人それぞれだ」
(人それぞれ?なんだ)
身近なツガイがアレだったせいで、とんだ勘違いをしていたらしい。でも、つがい関係なく、元婚約者のつがいは失礼な女だったのでなんとなく言われた事はわかる、かも。
最悪のツガイカップルと因縁ができちゃったのか。いやだなぁ。2度と会いたくない。
という、願い虚しく、フラグが直立不動してしまったと知るのは暫くして──。
フラグについての具体的なものは、ツガイ関連のものだった。年に2回、ツガイを探したり、ツガイ同士が楽しむ祭りという名目のフェスティバルが開催される。
(ツガイ関連のことを避けていたから、フェスティバルについて全く知らない)
友人のユアリスに聞くのが手っ取り早い。カフェに誘えば、待ってましたと約束の時間よりも早めにくる相手。ディアドアとのことを聞いてくるから、蜜月だよとシンプルに言う。
ユアリスは初めから、全て知っていたらしい。しかし、ツガイ嫌いのわたしに言うのは残酷な事だと思ったので、言わなかったらしい。
あの時は荒れている時。ユアリスの懸念は当たっていた。真実を知ったら、ディアドアから離れるために街を離れていたと断言出来る。
元婚約者のソーヤ。そのツガイのアンリ。2人のせいでつがいというものを歪んで見ていた。
「ねえ、つがいの祭典に出るの?」
「いまさら出るなんて、虫が良すぎる」
「そんなことないわ。なんせ、あんたの元婚約者達も出てるもの」
「…………はい?」
「知らなかったわよねぇ」
聞けば、ここ半年は出てないようだ。それはそうか。アンリからソーヤ達は病に伏していると間接的に聞いている。
とてもではないがフェスティバルなんて出ている余裕もない。アンリも妊娠中。誰も出られる訳がなかった。考えれば至極納得。ユアリスはニコニコと笑う。
「今回は半年ぶりみたい」
「え──っ」
「でしょ、面の皮が厚いの」
わたしも引いた。よくツガイの祭典に面汚しが来れたよね。ツガイがあれだなんて普通の人に思われたくない。
わたしの真のツガイが現れて、感覚を知ってしまったので、余計に汚らしく思う。ツガイが目の前にいても婚約者一歩手前の恋人を突き飛ばす!みたいな衝動は起こらなかった。
少なくても理性を飛ばすみたいな感じにはならなくて、あいつらが変だったわけなのが証明された。
「それにしても、あんたのツガイがディアドアで良かったわ」
わたしもだよ、と笑顔を浮かべた。元婚約者がツガイなんてオチ、最悪だからね。
仮にツガイじゃなくても、不誠実な男なのは変わらないので、ツガイじゃなくてもお断り一択。ああいうのを、ハズレって言うのだ。
(わたしはハズレを引かずに済んだ)
そう思えばニコニコだ。平和平和。ツガイの祭典は勿論、彼と参加予定……ではない。行くだろ、と既に誘われていて、はずかしながら頷いてなかった。
ツガイの祭典、気分の悪くなる単語が詰め込まれていて戸惑っていた。なので、ユアリスに相談しに来た。ユアリスには彼と参加なさいよと念押しされる。
「あんたが憎いのは奴らだけど、ディアドアには関係ないのよ。それだけは忘れないでね」
(そうだ。ディアドアは関係ない)
関係者たちは過去。今はディアドアと付き合っていて、彼らとは既に縁を切っている。彼のツガイとして参加する。決めた。
その日、ユアリスと別れてすぐ、彼のところへ直行して目を丸くする相手に、祭典に行こうと言いに行く。
「いきなりだな。なにかあったのか?」
ツガイに嫌悪を感じているわたしを知っている彼は、きっちりこちらを見ている。
「わたしの問題は、あなたにはなんの関係もないって分かったの」
「関係がない?あるだろ。おれのツガイだぞ。お前の痛みは……おれの痛みでもある」
「あ……甘やかさないで」
「甘やかす。嫌がってもな。そんなくだらないことよりも、おれのことを考えろ。あんなクズなんて、おれと比べものにならない男だぞ。勿論、比べられるのは嫌だがな」
にやりと笑う相手は、確かにかっこいい。村の男など、比べるでもない程。とんでもなくかっこいいだけでない。
有数の有力者だ。おまけになにより、そんな人がわたしのツガイ。カァ、と頬が赤くなる。
そう、そうだ。ディアドアはかっこいいから、直視するのが大変。頷きながら、必死に話を続けた。




