35ケーキとお祝い
今日はお祝いだ、とケーキを買っていく。二重に嬉しいことがあったおかげだ。ディアドアに報告するファルミリア。
「人生ゲームのことか」
流石はよく見ている。そうである、人生ゲームのこと。それともう一つ。
「わからん」
あっけなく降参する潔さが、かなり好きだ。ポカポカした気持ちで報告する。
「実はカードゲームの売れ行きが良くて、大会の開催が持ち込まれたんだよ」
「ああ、大会についても悩んでいたな。共同開催か」
「そうそう。やりたいって熱意ある人たちが持ち込んできたんだよ。あれだけ言うのは、のめり込んでる証拠だから」
カードゲームというジャンルは年代、年齢関係なくコアな層がいる。そんな人達が大会をしたい、開きたいと言いにきたのだ。ここらで有名なファルミリアなので、ちょっと聞けばどこにいるのか丸わかり。
そこらへんのセキュリティはこの世界でもガバい。ディアドアも楽しそうにそうか、と一緒にお祝いしてくれる。とてもうれしい。一緒にケーキを食べるとあまりの大きさに、店主が張り切ったのだと笑う。
近所の人たちは顔見知りで、こちらの有名なところを知っているので、名物発明家としても知られている。景気祝いにケーキを大きく作ったのだろう。
その優しさに胸が暖かくなる。ファルミリアは切り分けて美味しくいただく。
プレートには「ファルミリアちゃんおめでとう」と書かれていた。確かに、よいことがあったとは言っておいたけど、とんでもなく最高のサプライズ。
「こんなサービスしてくれるなんて。今度はもっとたくさん注文しようかな。差し入れ用に」
大会の主催側の人達用にと。呟くとディアドアもなら、おれもお礼に大量に買っていくと乗る。
無理しなくていいよと苦笑する。彼は甘いものは平気だが、かなりの甘党というわけではない。無理に買っては、残るだけだし。
「いや、平気だ。丁度持っていけそうなところがある」
その発言で、こちらも即座に思い浮かんだ。
「マリノ達のところ?」
「ああ。青龍のところの城にでも行けば、誰かしら食うだろ」
実は、あの事件以来、ちょくちょくジルステンという青龍の男の子というか、青年に近い年齢の彼と青龍のハーフである、マリノという女性たちツガイの人たちのところへ行っているようだ。
あの出来事で、ちまちまとご機嫌伺いと言う小さな嫌がらせに励んでいるようで。まぁ、嫌がらせといっても可愛いものだ。
ファルミリアに手を向けた時の仕返しなので、全然苛烈でもなんでもない。そこで終わるのはなにもなかったから。安心安全。
それに、出来事でいうとハッピーエンドだし。マリノも今や慣れた様子で交流しているとのこと。
この前はレモンサイダー狩りに共に行った。もちろん、高級コースだ。
レモンサイダーのどこに分けるところがあるのだろうかと、疑問に思ったが。
「まさか、レモンサイダーのシュワシュワ度の違いだったとは……」
おかげで、高級コースは強炭酸。普通でいいのに、強いのだ。飲むたびに強烈な炭酸が喉を襲う。
逆にして欲しい。強を普通に、普通のものを高級コースとして設定してくれと、飲むたびに喉が訴えてくる。
男達は女達と違い、すごく評判がよい。シュワシュワ度が強く、持ち歩くまでに。そんなに欲しいならば全て飲んでと、明け渡した。
マリノも強すぎてきついらしい。でも、お裾分けしたマリノの義理の父親はかなり気に入っていて、家に帰って楽しんでいるとのこと。
アルコールに混ぜるらしい。お酒に混ぜるのならば、丁度よいのだなと納得した。
「はぁ、農園でごっそり取らせた仇が、跳ね返ってくるなんて」
シュワシュワなんて可愛さではない、あれはジャワ!である。
喉もスッキリというわけもなく、飲むたびに大波のクラゲに刺される幻影が浮かぶ。サイダーという波と共に襲ってくるのだ。
「酒に混ぜるとうまい」
「元々お酒そこまで得意じゃないから無理かな」
「そうか……機会があれば普通コースにすればいい」
「うん、炭酸系は警戒しておかないと同じ鉄踏むことになるからね」
遠い目をする。ごっそり、あちこちにあるレモンサイダーの在庫が目に浮かぶ。取らなきゃよかった。
涙目になるくらいの炭酸度なので、地球のものを想像したとしても少したりないかもしれない。そちらよりも一.五倍くらい強い。
「そういえば、いちごミルクオーレ狩りの募集が張り出されるらしい」
「ついにミルク系統が来たか……」
腕が鳴るな。番にやらせる方の意味で。手に顎を乗せて、ハードボイルドな顔になった。
「いちごミルクか……一族をかき集める時が来たね」
「そんなにいいなら、冒険者の奴らを集めるぞ」
いちごミルクオーレの狩りは倍率が高いらしい。
「はっ、そうだ!高級コースでバイト募集して、一緒にやってもらうってのもいいかも」
「そうだな。数量は決めて、少し渡すというのもつけると集まりがいいぞ」
お金には困ってない二人なので、ミルク狩りの仕事を頼む分には余裕は有り余っている。
「マリノとかも誘って、青龍の子を一本釣りするのは決定してるとして」
「他人の番にも容赦ねぇな」
「マリノみたいなケチなこと言わなくていいよ〜。なんて言われようといちごミルクオーレは狩り尽くす。今すぐ予約しておかないと」
「そうだな、言ってくる」
ファルミリアも行くと言う前に目の前から、いなくなっていた。行動が早い。
こちらの期待に応えようとして、早く動いたみたいだ。嬉し恥ずかしいけど、愛されている証拠なのだと思えば、おとなしく待つ。
いちごミルクオーレがあるなら、いつかコーヒーオーレとか、フルーツオーレとかあるかも。
フルーツオーレ、好きなんだよね。
向こうの世界では銭湯や温泉に置いてあるイメージをしていた。
紙に書き連ねて、どのオーレがいいか思案していると、ディアドアが帰宅してきた。
とりあえず、枠をかなり埋めたとのこと。即座に、ギルドにもバイトの募集をかけてきたと言われる。
「完了した」
やることが早いシゴデキツガイ。
「ありがとう」
抱きしめられながら、礼を言うと相手も微笑む。ああ、幸せ。目を伏せて、温もりを感じ入る。
カードゲーム大会に向けて、調節する日々が始まり、少しずつ形になってくる。
今回の、熱意の人たちも共に設営していた。ファルミリアに、頻りにゲームの良さを褒め尽くす。
作ったのは自分だが、こんなに喜んでもらえるのならば、作った甲斐もあるというもの。その合間にやりたいことがあった。
「私はうっかりしていた」
「どうした急に。お前が色々作ってきたことで、うっかりしていることなんて、あるのか?」
ディアドアが、真面目に聞いてくる。
「あるんだよ、それが」
昔からやりたいことを好きなだけやり続けてばかりで、生活の方には余り手を入れなかった。
「だから、トイレットペーパーを作ろうと思うんだ」
「トイレットペーパー?」
頷く。
「トイレで使う紙のこと」
「ああ、わかった」
想像できたので、息を吐く。何に使うのか言わなくても大体察したらしい。魔法があるから、というのもあるが、これはファルミリアの趣味だから作るのだ。
というわけで、トイレットペーパー製作に力を入れたのに別のものが形作られ始めた。
「あ、これって」
「どうした」
「木材から作ってパルプを生成したんだけど、重ねてたらトイレットペーパーよりも分厚いものが」
スッと机の上にあるものを見る。
「ペーパーにしては分厚いな」
「うん、で、そうしたらオムツが出来上がって」
「オムツ?」
「オムツって言うのは……赤ん坊の」
説明をするとああ、と納得顔をされる。
「紙オムツができてしまった」
机には見事にオムツが鎮座している。




