30ダサくもない。がちんこバトルやってきた癖に〜
ファルミリアも番というものの存在を汚した元婚約者は、大罪者並みの罪を起こしたと今でも思うから。
「私ももし番関係なく婚約者に裏切られてたら、ディアドアを早く受け入れられたって、恨みに思ってるんだよね」
偏見に見えて失敗体験に基づく感情のせいで、相手にもかなり辛い目に合わせてしまったという、後悔。
「でも、だからと言って思い出さないってわけにはいかない」
「ああ。マリノは悲しかったろう。実父に裏切られてつがいに奪われて」
男はソファよりも、沈み込んでいるような気分なのだろう。
「じゃあ、そろそろ本当に意見を聞いてみよっか」
「なにがだ」
彼は首を傾げて二人を見る。
「マリノ、そろそろこのバカで、ダメな青龍族に説教するのを代わって欲しいんだけど?」
寝室に繋がる廊下のあるドアに向かって優しく問いかけた。空気はたわんでいる。数秒間があり。キィ、と恐れるようにドアと空間に隙間が生まれる。
「ま、マリノッ?あ、いや、マリノ様……」
呼び捨てにすると嫌われると思ったのか言い直す。
「いえ。大丈夫です。マリノとどうぞ、呼んでください。様付けなんてガラではないので」
ドアを潜り抜けて現れたのは寝巻きの女。ずっと聞いていたのだろう。
「マリノ。聞いてよ。この人、治療してもまだこんなに顔とか体とか傷だらけ。ほら、青あざ」
ジルステンの胸まで服をたくし上げ、ボロボロになっている体を見せる。
「や、やめろ。ダサいと思われるだろう!それに、暴力的に見える!」
「見えるもなにも、がちんこバトルやってきた癖に〜」
大乱闘だったはずだし。マリノも予測していたのか痛ましげに見遣る。
「ほんとうに、バカです。番というのは」
「ぐ……すまなかった」
ダメージが深く入ったのか目を伏せる男。
「青龍族など滅んでしまえばいいと、奥底でずっと望んでいたのに。よりにもよって私の番が青龍のあなたとは」
「それ、は。人間になどなれない。番ではないものには、なれない」
沈んだ声音でジルステンは悔いる。最後には泣き出した。静かに。ホロホロと。
「番でなかったらよかった。マリノが好きになってくれたのに。番でなかったら、私は」
マリノはそんな彼の側に近寄り、膝を折って上から見上げた。
「お願いします。私が言うのは間違っているのですが……どうか番だったことを責めるのはやめてください」
「だが、だが、私はマリノの番で……番じゃなかったら一緒になれた。共に生きられた。番なんて、なりたくない。好かれたいのに、番ということで嫌われたくないのだ。こんなに辛いなら番だと言わなければよかった。この体も今すぐ、消滅させたい」
悲痛な思いに女はグッと手を握り込む。
「ごめんなさい。あなたになんの関係もないのに。私の恨みと八つ当たりを、背負わせて。本当に言いたい人に言うべきことを言わずに、あなたに言わせてはいけないことを言わせるなんて」
マリノは自嘲気味に笑う。
「こんなの、私を捨てたあの男と同じをことをしている」
「違う。マリノ、は、悪くない。悪いのは青龍族だ。私だ。私が悪い。私のせいで過去の忘れたい記憶を無理矢理こじ開けさせた」
首を振る男。しかし、彼女は潤む瞳で首を振る。
「いえ、私が本当に言うべきはあの人だった。私の心が拒否するべきは青龍でもなく、あなたでもない」
「やめてくれ、マリノ。私はいいのだ。無理に受け入れなくてもいい。番がお前でよかった。自分が傲慢だと知れた。お前に嫌われる性格より、マシと思われるように見直せた。こうやって話せなくなる前に気づかせられたのはお前のおかげなのだ」
マリノはその切実な愛に、手を開いて下から彼を包むように抱きしめた。それに、呆然となる青龍。
「あなたのおかげで私は青龍族が嫌悪の対象という、間違った偏見を生涯において、持ち続けるということを回避できました。思考を壊してもらえた。ありがとう。ジルステン様」
マリノも泣いたのか、声は震えていた。
「マリノ!?だ、だめだ!青龍族で番に触れるなどっ。トラウマがまた生まれる!」
嫌われたくないというその一点でジルステンは身を捩る。




