29その男気百万点。その差は海よりデカい
それはやつにできなかったマリノの代わりに、復讐代行のつもりなのだろう。
「奴は、プライドの高い顔をぎくりとさせたから、うまくいった」
「よくやったな。おれはお前を褒めてやってもいい」
「あ、ああ。そうか。お前の番は、その……いい奴だな?」
ジルステンは微妙な顔をしてファルミリアにたずねた。
「うちのディアドアは割と番を害した相手に苛烈だから、最高の褒め言葉だよ。今あなたは彼の中ですごく最高な戦士扱いだと思う」
よかったねー、と頷く。
「マリノはお前達のようなものが好きなのか?私もそうならないといけないのか?」
ボソボソなにか言う。聞こえるけど、ちょっと。
「あなたが私たちになることは無理だけど。あなたは私たちにはなれない、マリノの番ってことは。結構重要だと思うよ?」
「い、いや、それは。番になるのはもう無理だとわかっているから、いい」
「そうかな?私とディアドアも最初は番として会ったわけじゃないから、出会いとかそこまで重要じゃないけど」
「ん?番ではない?」
ジルステンに、最初二人は番を持てない間柄として認識しながらも仲をゆっくり深めていったことを軽くダイジェストにして、教えた。
「お互い惹かれあっていたのに、番として向き合ったわけじゃない。そんなの、あり得るのか?」
信じられないという顔に、ディアドアは笑う。
「おれはこいつを番と思ってたが、つがいになることを嫌悪しているのを見てつがいとしてではなく、愛する相手としてなら側にいられるとそう決めた」
「伝えたら、嫌われるからな」
今の状況と重なるからかジルステンは理解したように頷く。
「ジルステン。呼び捨てにするけどいいよね?あのね。先輩からアドバイスしておく」
治療を終えた顔はまだ自信がなさそう。
「あなたは一度マリノを諦めたのなら、次は番じゃないマリノと話してみたら?」
「だが、マリノは私を番と知っている」
「知ってるけど、状況は一つずつ変化してるよね。あなたはこうなる前と違って行動を起こしてしまった。少なくても、連れ帰りたいと言い放つ時の人格とは乖離し始めている」
「あの時はそばにいたくて。失敗した罰だ」
「確かに最低な青龍ってイメージを重ね塗りしたのは、失敗だけど。あなたは実父とは決定的に違うでしょ?マリノを大切に思ったから行動に移した。マリノの実父はマリノ達を捨てた。その差は海よりデカい」
正直、マリノの実母と義理の父にはめちゃくちゃアピールポイントになる。感謝されてもおかしくない。それなのにそれを隠してこっそりここへ来て、感謝しろと言わないところ。最高にビッグな男にしか見えない。かっこよい生き様。
「私がジルステンの番だったら、百万点上げてる」
「そ、そうか?」
「やらねえぞ」
「いらんと言っただろ!?お前、番の本能を知っていて、理解してそれを口にしてるだろ!?」
ジルステンが吠えた。
「まぁ、つまりは青龍イコール最低なゴミっていうのと、ジルステン単体と、実父単体が分かれ出してると思うよ。私はマリノ本人じゃないから本心までは、わからないけど」
「だから、お前は番のこいつを受け入れたのか?」
「んー、ちょっと違う。番だから受け入れたというより、この人が番だったらなって思ったら本当に番だった。なら、元婚約者はって思って。考えて考えて。番ってもしかして、最低じゃないのかなって、自分の価値観とか考えを疑い出して。漸く番だから好きになったんじゃないって、思いたくなかったんだって気付いた」
番なのはたまたま。好きになるのならつがいな場合。この人だったらどんなに幸せなのかと。
「ジルステンはマリノが番だから好きって思ってるけど、マリノは別に番だって知っても嫌だって言ったでしょ」
「番じゃなかったら受け入れられてたと、思ってる。そう思ったらそれをしたあいつが余計に憎くてな」
本来なら快く受け入れられたはずなのに。それを壊した元凶に文句を言いに行きたくなるのは、ごく自然なこと。




