02友人
そして、元々興味のあったギルドへ行き、依頼をこなしている現在。
一年もしない時に、男の人に詰め寄られてツガイという言葉が出た時、ざわりと鳥肌が立って冒頭の言葉を叫んだ。
なにがツガイ!
ツガイとは、魂の結びつきの強い人達の事を指す。
別にそれは、恋愛とは限らないらしいけど。
パートナーとかいう言葉も、最近は主流。
「は、あはは!あっはは!」
ずっと向かいで笑っている子女。
そろそろ終わってくれないかね?
「で?そいつどうしたの?」
「どうもしない。わたしが熱り立って置いていった。着いてこなかったから、それっきり」
「やぁだ。面白いわ。そいつのこと知ってる?」
「知らない。知りたくない。どうでもいい」
前々から知り合いだが、街に住むようになってよくカフェにいく友達は、ケラケラと笑う。
「あいつも憐れよね。よりにもよって最悪なツガイ騒動でキレてるあんたに、ツガイって言うなんて……時期が悪くて。まぁ、どんまい?」
友達のユアリスは、コーヒーを飲み終わった。
「……ユアリス」
低い声がかけられる。
「あら、ディアドア」
後ろに知り合いがいるのかと、後ろを向くと険しい顔をした御仁。
「知り合いなの?」
「え?あんた見覚えない?」
ユアリスは嘘でしょ、と呟いた。
頷くとまた大きく笑って、ディアドアと呼ばれた男を見る。
「ふ、くく!もうやめてよ……面白くて見逃せないわ。ここ最近で一番笑えるっ」
「ユアリス、切られたいのか」
低い声の主が威嚇に歯をチラつかせる。
「だって、ふふ、あんたのこと覚えてないって!あんたモテるのによりにもよってこの子に覚えられてないっていうじゃない!スキャンダル通り越して悲劇ね」
ユアリスのいうことは、イマイチわからないものの、初対面故にぺこりと挨拶する。
しかし、男は固まったままこちらを凝視。
「本当に……見覚えが……ない、のか」
「え、はぁ、すみません。人の顔覚えるの苦手なので」
「……そう、か」
ユアリスがまた、笑いだそうとしている。
「ユアリス、いい加減笑うな」
男がたしなめる。
「無理でしょ、無理無理」
ユアリス!
流石に放置されるのは困るよ。
お互いでしかわからない会話は、置いてけぼりになる。
「そうだ。ディアドア強いから、パーティー組んだら?」
え、急に?
「いや、ユアリスなにいってるの」
「おれは構わない」
否定していると、男の方はやれると何故か承諾する。
「ええ、いや、ちょっとそれは」
初対面で組むのは自殺行為。
「いいじゃない。こいつにやらせてお金だけ奪いなさい」
彼女は無責任すぎるのである。
「いやいや、無理だって。失礼だからそんなの」
「パーティー登録だけしとけばいい」
二人になぜか寄ってたかって説得される謎。
ディアドアは何故か椅子に座って、話を更に具体的に詰めてくる。
グイグイくるなぁこの人。
硬派に見えたんだけど……。
「できたら、ツガイに会ったけど恋愛にならなかった人がいいなぁ」
ぽつりと言ったら二人の顔が、かちんとこわばる。
そして、ユアリスの笑いが空に響く。
うわあ!皆見てるって!
「わたしを笑い殺す刺客ね、あんた。絶対そうよ!あと、ディアドアはもう会ってるけど振られたから、いいってことよね」
ユアリスは真面目な顔をして頷く。
「え、ディアドアさんもう会ったんですか」
聞くと、彼は微かに目を細めてそらす。
聞いちゃ駄目なことだったよう。
う、悪いこと言ったな。
でも、恋愛で崩壊しなかったのなら、そっちは信用出来そう。
「それなら安心ですね!」
それと、彼と目を合わせた時から動悸が凄く、激しく波打っている。
ツガイではないのは確実だ。
彼は既に、会っているというのだから。
「よろしくおねがいします」
なんとなく、断ってはいけないと、はやる己を落ち着かせて彼に述べる。
男は複雑な顔をして、頷く。
ユアリスの笑い声が一向に止まない。
彼女って、そんなに笑う人ではなかった気がする。
ディアドア、改めて──ディアドアさんと活動することになり一ヶ月。
彼はとてつもなく強いと知り、パーティーとしても順調に進んでいた。
「食べに行くぞ」
「家で済ませた方が、安上がりですよ」
どう食べるか論議していた。
そこそこ仲よくなった。
と、思う。
相変わらず胸が疼く感覚はする。
しかし、決定的なものはなにもない。
正体不明なそれを、いい加減取り払いたい。
「お前の家でもいい」
「わ、わたしの……ですか?それは、母も居るので」
「お前の親は有名だろ。日中は居ないと聞いたがな」
ニヤリ、と笑う男の腹は真っ黒に違いない。
噂で知っていても、普通は言わないと思うよ。
そこは、知らないふりをするべきところ。
そうしないのが彼の性格なのだろうな。
優しいだけではない、賢くて頼りになる人。
ユアリスにも彼の感想を言ってみたことがある。
ユアリスは優しいって、と難しい顔をしていてなにか、含みをはらんでいる顔をしていたのを思い出していた。
ディアドアが、わたしに優しいことに関してなにかあるのだろうか、と。
「わかりました。ご飯の間だけですからね」
「決まりだな。食材もついでに買ってくか」
食品売場に向かう。
村とは違う活気に、過去の思いが蘇ってくる。
村はきっと混乱しているだろうな。
元婚約者とツガイは、どうなったのだろう。
結婚したんだろうか。
あんなにお互い見つめ合って、共通の敵のようにわたしを見ていたし。
別れるなんて絶対ないんだろうさ。
ツガイは、わたしだっていいなって憧れていた。
昔の話だ。
あくまで小さい頃のね。
あの二人を見たら、幻想も吹き飛んだ。
ろくなもんじゃないってね!
あと、きっちり慰謝料は振り込まれていた。
結婚前ではあるが、周りには知られていることで、ツガイが見つかった後の行為が悪質だと判断されている。
こういう時の、判断する相手は妖精。