19経営権を剥奪することが決定しました
そんなことは思ったこともなく、母の兄を、その家族の命を救えてホッとしていたくらいなのだ。
それなのに、そんなスカッとした気持ちに暗雲を被せる叔父に冷たい声を浴びせるくらい、罰にもならない。
「け、ケニー」
叔父は情けない顔で妻と姪を交互に見る。
どちらからも今、見放されかけていることを肌で感じていることだろう。
「叔父さん、母さんと縁切って帰ってね」
「え、あ、え」
あ行ばかり口にして、全く言語を発せなくなる叔父。
どうでもいい。
もう他人だもんね。
ディアドアはこちらの意見に異論はなさそうで、叔父を鋭く睨みつけていた。
番を精神的に傷つけていく叔父に、怒りを溜めていると思われる。
「叔父さんがむかしに追い込まれた原因になったこと、また繰り返そうとしてる。今度こそうちが巻き込まれそうだし、さっさと全員と縁を切って好きにすればいいよ。商売は停止するから。余裕があると人って余計なことを考えるから」
呆れ果てた声音を彼へ告げた。
叔父をとりあえず家から叩き出す。
奥さんのケニーは叔父についてもうしわけなさそうにしていたから追い出さずにアップルティーを、再度振る舞う。
「ありがとう。ファルミリアちゃん」
一番気を揉んだのはこの人だろう。
ファルミリアは叔父の商品の権利を発動させ、販売中止にさせるため紙へさらりとペンで記入させていく。
「叔父さんいつからあんな感じになったの?」
「そうねぇ、三ヶ月ほど前からかしら。その時はまだ友人と飲むと言って相談に乗っていると言っていたわ」
「まだその時はただの相談とか、愚痴を言い合う場だったんだね」
その時は、本当にそれだけだったのだろう。
この世界じゃそういう緩い部分が多い。
紳士の集まりなどというおしゃれさは皆無だけど。
「それが、一か月ほど前だったか……少しずつトゥバがなにかしてやりたいと言い出し始めたの」
叔父がそういうことを言い出すのは珍しいことじゃない。
あまり勉学ができないような環境の子供がいたら、その子をどうにかしたいと思い環境を整えることなんてある。
が、今回は聞いていると大人が大人に相談という名の、強請りをやっているだけにしか聞こえなかった。
「つけ込まれてるな」
「つけ込まれてる」
「つけ込まれてるのよね」
三人が見なくてもわかりきった言葉を唱える。
なにも知らないディアドアでさえ、同じ意見になった。
やっぱり叔父は人がいいけど騙されやすく、儲けてお金持ちになってもその性質は直せてない。
治さねばまたお金を失う事態になる。
叔父は経営はうまいが、そのお金が意味のないことに使われるとなると話は別。
穴の空いた袋にお金を入れるようなもの。
叔父は五分ほど外から話しかけていたが、聞こえなくなったので母のところに言ったのだろう。
素直に話したら、母から雷とか怒りを浴びせられることになる。
そうして反省してもまた繰り返すだろうから、叔父から権利を奪う。
経営権はそのままに、売り払ったり現金を動かすところを大幅に叔父から剥ぎ取る。
「ケニーさん。生活は変わらないから安心してね」
そうすれば、叔父はお望み通り雇われ社長になれる。
「ごめんなさいね。あの人、こうと決めたら誰の意見も聞かない癖に、なにか起きたら誰かに頼るのは悪い癖と叱ったのだけど」
「うん。だから、仕事だけできるようにしておくね。余計なことができないように」
話し込んでいたら妹に首根っこを掴まれた、叔父と実の母が家に入ってくる。
「聞いたわ。こいつがごめんね」
母は親世代の兄弟が子供にたかる行為に頭をさげた。
トゥバめ、母に頭を下げさせる怒りをとくと受け取れ。
誰が親に頭を下げられて嬉しいと思うのか。
「おじさん。今日から叔父さんは私の部下になったから。叔父さんは雇われになったよ。あと、叔父さんの上司にその人を雇ってあげるかその人の相談役につけてあげてもいいよ。好きに選んで?」
「へっ?」
叔父はぽかんとした。
「な、何を言って」
「経営権一割残してあげたから、あとは好きにやれば?辞めるなりなんなり。別に叔父さんがやらなくても他に候補者なんているんだから」
「い、いやっ、な、そんなわけないだろう?私の会社なんだぞっ?」
「違う違う。私のものになったから。叔父さんは私が雇ってあげてるから魔法トランプに関われるよう、雇われ社長にしてあげたから」
叔父は母が手を離すと倒れる。
「ファルミリアを怒らせたあんたが悪い」
母が呆れたように手を叩く。
「姉さん……」
本来、母のところに来た時点で商会を手放すしかなかった。
「元々、叔父さんの商会はとっくになくなってたから、なくなっても平気でしょ?それに、叔父さんがヒーローぶりたかった相手も雇ってあげるなりすれば?バイトくらいなら権限あるし」
相手は商品が欲しいと言っていたらしいが。
「その場合、叔父さんの権限なんて弱いから同僚になるね。よかったね。救ってあげられる」
「そんなつもりなんてない」
叔父がぶつぶつ言う。
「叔父さんは人を助ける代わりに私からの信頼と信用を失ったけど、幸せでしょ」
冷たい瞳で相手を睨む。
「ちがっ、違うんだ。ただ、なにかアイデアがないかと」
「なんで赤の他人に教えないといけないの?気付いてないから言うけど、叔父さんは頼られてるんじゃなくて利用されてるだけなの」
「あいつ、そんなやつじゃないんだよ」
「騙されてる人って明確に痛い目に遭わないとこうなんだよね。難しい」
ファルミリアはぽんと浮かぶ。
「そうだ。その人に長から外されたと言って。そして、もう経営に関われなくなったと言ってよ」
「わかったわ」
「え、ケニー」
「なにか不都合があるの?嘘じゃないでしょう?」
ケニーに強く確かめられて男は俯く。
必ず言わせるわと言われ、母もディアドアも納得したらしく怒気をしまう。




