18喉元過ぎて昔のことを忘れたみたいだね?
そちらよりも、もっと気になることがあるからだろう。言わずもがな、自分の番について。手紙を読まないまま、償いのことをしたと言うならば、さらに注目する。
ディアドアは目をあちこちに向け、首を傾げるとおれになにか、と問い返す。確かに、なんなんだとはなる。
番に口を出すものなのなんていないが、どんな子なんだと気になって聞いてくる人はあんまりいないと思う。
「ディアドアくん。出会いはどんな風なんだ?」
(本当に親戚のおじさん感が出てきた。金ピカスーツで)
いくらおじさんでも、金ピカスーツは面白い。昔、成り上がりの商売人というのは金ピカスーツを着てきた的なイメージを叔父に教えた覚えはある。
「叔父さん、アップルティー飲んで。ディアドアとアップルティーパック狩りしたんだよ。高級茶葉コース」
「おお!あれかっ。あれはいいな。来年は参加しようか」
「ええ」
ケニーが朗らかに笑う。ディアドアとファルミリア達は目配せをする。
「たっぷり狩ってきたからちょっとあげるね」
「そんなにか?相変わらず稼いでいるのに倹約家だな」
「そういうんじゃなくて。なんか、取り放題って元を取りたくなるの。どっちかというと本能かも」
叔父の商売を競争とするのならばと例えを出すと太ももを手のひらでパーンと叩いてなるほど!と納得される。叔父は受け入れるのは素直なんだけど、与えるのも容易くやるような騙されやすさを兼ね揃えていた。それにより、首が回らなくなりかけたもんなぁ。
「ねぇ、おじさん、他になにしにきたの?」
「……頼みがあってだなぁ」
「あなた!それは言ってはいけないと、あれほど言ったでしょうと!」
な、なんだろうか。突然言い合う夫婦に驚く。前の時は妻は連れてなかったから、叔父をみっちり言うときにはなにも言われなかった。
「なに?なにか問題?」
問いかけると二人はふつりと黙る。え、なんか怖いんだけど。
「それがなぁ、実はわたしの友が経営不振に陥っていて」
「あなた!やめてっ」
叔父を責めるように妻のケニーが怒鳴る。
「わ、わたしだって言いたくはない。しかし、本当に困っていて」
「叔父さんのお金をあげればいいのに、そっち方向ではないってことは、商品関連?」
「ああ!お前の知識で商品を考えて欲しいのだ」
「うーん。叔父さん」
ファルミリはパァッと花の咲くような笑みを浮かべて、叔父トゥバを見る。それに期待を寄せた明るい顔をする男。
「叔父さん……叔父さんの商売をいつでも、なかったことにできること忘れてる?」
「…………え」
唖然とした顔の親族が目に入る。それに、ため息をつく。ケニーは横で額に手をやり言わんこっちゃない、という態度だ。
「はは」
ディアドアは、それはそうだろうという笑みを浮かべた。
「叔父さんの商品の三割の権利はわたしが保持しているけど、売買権に関しては六割だってこと覚えてるよね?売り上げは全てそちらに譲渡するからってことで。また下手な人に騙されてしまわないように」
叔父に権利を与えねば騙されても、奪い取られるのは叔父に渡されている分だけ。権利書は、自分の分だけになるけど常に持ち歩いているので、盗まれることもない。
叔父が酔って、ぽろりと言ってもどこになにがあるかまでは、相手も不明な状態になるというわけだ。
「叔父さん、その人と叔父さんのお店どっちが大事なの?」
「な、そ、それは」
叔父がこちらの怖くなる顔に、しどろもどろになる。情けないことに叔父は、幼い頃スパルタをしたこちらを酷く恐れている節がある。感謝もあるが怖くもあるということで、彼はオドオドとし始めた。
「だ、だがなぁ」
「あ、叔父さんとか言って親しい気分になるがダメなのかな?じゃあ」
にこりとなる顔に顔が引き攣る男。ファルミリアはニコリ顔から低い声音を出す。
「トゥバ」
叱られる前の子供のように、膝の中に手をやりひゅんと首をすくませる。
「喉元過ぎて昔のことを忘れたみたいだね?」
「ひゃう」
「あなた!怒られるようなことを言っているのはこちらなのよ!怯えるなんて最低!」
「ケニーさんを怒らせるなんてさすがはトゥバだ。昔は妻と一緒に沈んでしまうと怯えていたくせに、よくもまあ私に図々しく頼めたよね?自分で言うのもなんだけど、私って叔父さんとその家族の命の恩人って立ち位置でしょ?よく言えたね?」
今まで命の恩ということを、恩着せがましさなんて一言も述べたことはない。




