15トゥバ叔父さんとケニーさん
ディアドアと共に家に帰ってきてすでに数ヶ月。帰宅した頃は落ち着かなかったが、色々な騒動はもう終わっているからと何度も説明された。
ようやく、抱きしめ返せることを噛み締められる。ファルミリアはそうとなると、となにか猛烈にしたくなった。
安らかな人生を送ることもできるが、せっかく転生してきたのだからなにかを教えたいと望むのは人として、普通のことなのかもしれない。
「ディアドア、人生ゲームを作ろうと思うんだけど」
「人生ゲーム」
小さな頃に軽いものは作ったけれど今回はもっと本格的なものを作りたい。
「じんせい、げーむってなんだ」
「私が知ってるあそびなんだけど」
などと、くどくどと彼へ説明を挟む。
話を聞く男はこちらの真剣なる目に頷く。
「人生を模倣して体験してみる遊戯か」
「うん。うん」
彼は賢いからか、すぐにまとめてなにを言いたいのか察してくれる。魔法の世界で作るのだから立体のある人生ゲームを作りたい。
紙に魔法陣を記して、そしてなにかイベントが起こるとミニゲームができるという、仕組みにするとか。折角この世界に生まれたメリットをいかさねば。色々できそうである。
小さい頃は自身の身の回りの強化や便利な生活をするために励んだ。今は完成しているのでようやくそっち方面に力を入れられるというもの。
元婚約者がいた村に今でも住んでいたらそこに住んでいた人たちのためにいろんな暇つぶしを教えたのだが、彼らも結局見ているだけだったしと気にするべきものはなさそう。
「構想は前々から練ってたんだけどね」
「おれになにをして欲しいんだ?」
早速、その頭を回転させて問いかけてくる彼ににっこりと笑う。
「それはね、色付けを頼みたくて。もちろん個人的なお願いだから依頼料は払うよ」
「そんなもんに、もはや意味はないしな」
「そう?」
ディアドアは腕を組み、なにを叶えてもらおうかということを口ずさむので慌てて「叶えられる範囲だから」と口添えしておく。
過多な要望は無理だ。そう述べていると男は軽く笑みを浮かべて理解しているから大丈夫だと保険をかけてくれた。
安堵すると同時に、色付けを頼んだのは他にやることがたくさんありそうでファルミリアも忙しくなりそうだし。ということもある。
「どこから始めればいいのかだけ、考えないとなにもできないよね」
そうして、二人でなにから始めるかと話し合っているとドンっとという音が玄関から聞こえてくる。
「なんだ?」
細く目をすがめた番が小さく問うた。
「我が〜愛しの〜姪よっ!トゥバおじさんが来たぞおおお!」
バリトンボイスの声を歌声に乗せて我何を知らせてくる相手。
「あっ、シソウ叔父さん」
「シソウ?やつはトゥバと名乗ってるが」
「シソウっていうのは今にも死にそうな顔をしてたから心の中のあだ名だよ。本名はトゥバ。母さんのお兄さんね」
母方の兄である。
「随分と、悪意のあるあだ名だ」
「悪い意味じゃないよ。単に会ったときの叔父さんの顔が本当に、というか開けないと」
悪気はない。悪気はね。ファルミリアは扉を開けるとムチっとした胸筋、胸の筋肉が広いものを視界におさめて困ったように眉を下げた。
「叔父さん、来るならせめて連絡を」
「ほら、トゥバ。ファルミリアちゃんを困らせてはいけないわ。だから、先に連絡くらいはしましょうと私は言ったよね」
叔父さんに説教をするのは、後ろにいたけど筋肉質な男に隠れて見えなかった細身の女性。耳には兎耳があり、ピンと張っている。
一時期まじめにこの人のために人参を本気で探していた。ウサギ族の叔父の妻、ケニーである。
「う、それは、次から絶対にそうする!約束しよう!」
「あと、叔父さん、金色のスーツはダサい」
「ぬっ!?」
「成金趣味よねぇ」
「けけけ、ケニーまでそのようなことを」
金ピカスーツは流石にないなと首を振る。




