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11ディアドアに迫る不穏

彼の気掛かりが形となって現れたのは、話を聞いて数日後。


ギルドに行こうとすると、ギルドの前に豪華な乗り物がどんと道を塞いでいた。


ここは駐車禁止なのだが。


中を覗くとメタルブラウンの髪色をした派手な装いをした少女が人々の視線を掻っ攫っていた。


場違い故に目立つ。


近くにいた遠巻きにしている人に聞いてみたら「ディアドアを探しているんだと」と聞かされて初耳な事態に怪訝な顔になる。


「あの少女が」


受付の人がディアドアの番と知っているので目でどうするかと聞いてきている。


(もしかして、ディアドアの気掛かりってアレ?)


首を横に振る。


関わるつもりはない。


嫌な予感が凄くする。


「あら?」


こちらに気付いた少女は目を細めて、椅子から立ち上がるとつかつかとやってくる。


(私のところに?)


ファルミリアはシュッとギルドの外へ走る。


「待って!」


呼び止められたかもしれないが、ファルミリアは止まらなかった。


女と男が絡む件には、二度と巻き込まれたくない。


無関係を突き抜けるつもり。


でないと、本来関係のない自分がまた騒動の渦中に放り込まれる。


飛び上がり屋根を跳ぶ。


後ろからやってきた、少女の追っ手は見失ったらしい。


「全く、誰も彼も恋愛脳」


家に帰り、ディアドアに緊急事態だと告げる。


「その子供の特徴は」


ディアドアに聞かれて髪色を伝えると、大きなため息を吐き出す。


「知り合い?」


「ああ。顔は知ってる。秘密事項に触れるから具体的なことは言えない」


遠回しな言い方にピンときた。


その秘密事項の依頼相手に関係する、子供ということ。


「内容は言えなくても、なんで来たかっていうのは言える?」


「そうだな……おれに頬を染めていたってことぐらいか」


度し難い子供だといいたげな声音。


聞き終えたファルミリアは冷たくなる手足に、自室へ向かう。


「ファルミリア!あの子供とはなんの関係もない。依頼相手の関係者というだけだ」


自室の中を探して、用紙を見つけて引き出す。


「……これ」


ディアドアが追ってきたので、それを掲げる。


「妖精契約書……いつも置いてあるのか」


「私には重要なの」


「そうか」


「あと、妖精の鈴」


「それを出すってことは相手がなにを言い出すかわかるのか」


「ディアドアだって、うっすら予想してるよね?」


「おれを番だと、言い出すってことか」


「番については、どんな肩書きの子供でも小さな頃から言い聞かせていくでしょ。恋と番の衝動は似てて。あの年齢の子なら、恋を番だからと思い違いしてもおかしくない」


普通は親がなんとしても修正するのだが、お金と行動力のあるディアドアに惚れた子供は、恐らく親に言わずにここまで突っ走ってきたのだろう。


彼女が手足のように使った追っ手は頭が悪い。


「私を追ってきた人達、次はボコボコにしていい?バレないようにするし」


「ああ。正当防衛で処理させる」


追いかけてきたと聞き、ディアドアの顔が怒りに染まる。


己の番に手を出そうとしたことで、一線を越えたという判断になったのだ。


「精霊に認可させて、二度と関わらせないようにする」


ディアドアは更に追加。


「番に会っても、簡単にいかないようにもする」


追随するように頷くファルミリア。


「それにしても、家を出て行くかと思った」


今はディアドアと二人暮らし用に、家を買って暮らしている。


出て行くのなら一人用に家を借りねばならない。


「不動産屋で査定しておかないと」


「待て!すぐに、速やかに対処する。だから、出て行くのは」


「それは、相手に依存する問題だよ。ディアドアはすぐに終わらせたいと思っても、向こうは簡単に逃してくれない。私は絶対に巻き込まれるから」


彼には悪いけど、男女問題が最大のトラウマになっている。


もう嫌だ。


「わかった……もしよければギルドの寄宿を使ってくれ」


「できるの?」


「事情を話しておく。それと、番の法律に詳しいやつや、施設にも連絡する」


「……考えとく」


うんも、いいえも言えない。


なぜなら、今後どう自体が転ぶかわからないせい。


ファルミリアは眉尻を下げて、俯く。


ディアドアがソッと、包み込むようにこちらを抱きしめてくる。


抱きしめ返したいが、腕に力を入れられなくて返せない。


彼がもっと、力強く抱きしめてくるのを感じた。


愛していると、言葉にしてくれるけれど。


不安で押しつぶされる。


(また、違うと言われたら。でも、彼は私の番。だから、間違うこともない。ちゃんと私達は同じ)


元婚約者のいざこざでやはり、深く心はまだ傷ついたままだったことが悔やまれる。


少しずつ薄まるにしても、男女間の問題が起こる期間が早すぎた。


相手を信じたいけれど、それとこれとは話が別なのだ。


相手はどうみても貴族っぽい。


ディアドアの言う通り、番は引き離せないし、引き離すのは許されない。


「ディアドア。禁句事項なのはわかってるけど、私が知らないということは、なにもしてないということを忘れないで」


「!……わかった。必ず元に戻す」


どれ程の言葉をかけられても、彼らの間になにがあったのか語られないのならば、それは不実であると伝えた。


禁止事項があろうと、こんなことが引き起こされたのだ。


必ず、秘密事項を開示させておいてという意味である。


「じゃあ」


「ギルドに、行くのか?」


「今行ってもまた鉢合わせるから無理。友達のうちに行く」


(バイバイ)


ディアドアにさよならを告げて、着替えや必要なものを鞄に入れる。


嘘をついた。


だれのところにも行くつもりはない。


自分は誰も知らないところへ行く。母にもなにも告げない。


知らねば巻き込まれることはないと祈る。


ファルミリアの力ない笑みを見たからか、ディアドアは追いかけてくることはなかった。


とても助かる。


「鞄、持って行けるのはまだいいかな」


もし、これが家の中で起こっていたならば、修羅場であまり荷物を持てなかった。


外に出ると屋根に上がる。


追ってはきてない。


(よかった。家はまだバレてない)


アイテムボックスの様な亜空間を作り上げて、荷物を押し込む。


「根無草になるとは」


母のところは直ぐに身元が割れやすい。


一軒家ではなく薬師の店。


普通の家よりも中に入りやすい。


「もし、私の身元がバレたら絶対に行くよね」


不安になり、母の家に向かう。


闇を足に纏わせて音が出ないようにする。


(まだ家にいる)


家にいる母は薬を作っているらしく、なにか手作業していた。


窓に寄って、窓を叩き母を呼ぶ。


こちらに気付き驚きながら窓を開けてくれたので、中へ。


「どうしたの?」


「緊急事態」


ファルミリアは眉根を寄せて、母にかいつまんだ言葉を乗せる。


「そうなの?またなのね」


「また。だから、遠くに逃げる」


「そう?大丈夫?」


「大丈夫。なんとかなるから」


「こんなときに、なにもできなくてごめんね」


「そんなことは思ってない」


首を振り、母親から離れてまた屋根を駆け上がる。


屋根に登ると街の景色が広がっていく。


「どこに行こう。ミガシの街……かな」


東にある街なのでそこそこ離れている。


そこへ向かうためにまた走り出す。


「次会えるかわからないけど、またね」


ディアドアへ向けてエールを送っておいた。

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