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10冒険者に社交性があっても理不尽なことはある

つるり、ぴかりとしていて、メタルブラック。


うっとりする光沢。


(黒い。かっこいい。我ながら凄くいい!)


乗り込むとエンジン音を吹かせて、目的地へ行く。


依頼内容は、村の近くにある巨大な虫のような魔物退治。


女でガッカリされたのは、そのせいもある。


「虫系は女冒険者に不評で、滅多に受ける人いないんだったよね。私も好きじゃないけど。男の人たちだって、できれば嫌でしょうに」


そこに男も女もない気がする。


男の人とて、虫はできればやりたくないでしょ、と思う。


女も大丈夫な人がいるだろうし。


「お、あそこかぁ。よっとっ」


バイクを降りて、虫系魔物を処理。


具体的に描写するといい気分になれないので、省略。


「依頼主は素直にサインしてくれるかなぁ?してくれないなら、村中にこれをばら撒いて。サインしてくれないんでスゥって泣きつけば、皆でサインさせてくれるか」


たまに、謎のゴネる行為をする人がいる。


その時のあしらい方を、なんとか模索しているのだ。


村に戻って依頼完了を伝えると予測している通り驚きに目を丸くする依頼主。


さっさとサインしてもらおうとすると、疑いの眼差しがくる。


やはり証拠と言われるかな。


見せるのは構わない。


「見ます?」


「ええ」


不正を暴いてやるとすら考えている思考が簡単に読める顔をしていた。


隣に来た女と同じ家にまだ居た男も、疑惑の顔をしている。


そんなに見なくても、真実は真実のみしかないのだけど。


「どうぞ」


どさりと魔物を丸ごと見せる。


家の外に出した。


それは善意だ。


悪意がありなら、家の中に出すことだって、あるんで。


自分はしないけど、依頼主が見せろと言いムッとする人も中にはいる。


だって、依頼主も冒険者も人だし。


ムッとしたら嫌がらせもしたくなるってものだろう。


「ヒッ!」


「うわぁあああ!」


虫系魔物丸ごとを見たいと言ったくせに。


「軟弱過ぎて」


やれやれとため息を吐く。


「なんだ?」


「ああ……なんっ、うぎゃあ!」


「え!魔物?」


ぞろりぞろりと、男女の声を聞いたご近所達が出て来た。


「これは討伐した魔物です。依頼主の彼女が討伐をした証を見せろと言ったので、不肖ながら出させていただきました」


説明すると、責めるような視線が男女に注がれる。


(わかった!彼女達は村の人達から見ても、問題のある人達ってことか!)


「わ、わ、わかったからしまって!」


「いえ、サインをいただけるまで証拠は置いておきます」


ズイッとサイン書を手に出す。


彼女は震える手で書く。


針の筵で書くサインはどんな気分なのだろう。


(ふふ)


初めて会った時の、バカにした物言いの仕返しができて満足である。


「どうも」


(次から人をバカにしないことを学んで)


特に、力のある存在をね。


うっかりファルミリア以外の強い女冒険者にそんな態度を取ったら、威圧感で呼吸が困難になるなんて優しさで終わらない。


殺気で夜、眠れなくなるので要注意だ。


プライドというか、自分のやるべきことをこなしたい人の邪魔をしたら普通に怒られるという正常な反応。


女だからとガッカリすることこそ、相手の反感を買う。


同じ態度を取られたりしない限り、共感ができないのだろうけど。


今のうちにしれてよかったではないか。


これも人助け。


下手に強い人を煽ったりなんてしたら次の日住む家がなくなってましたなんてことになっているかもしれないのだ。


いや、冗談じゃないし嘘ではない。


なんせ、本当に強い人は一騎当千並みな力を持ち地面を陥没させられるのだから。


そんな人を怒らせた場合ひっそりと仕返しが行われることになる。


嫌味やバカにしたからではなく、仕事を邪魔した場合に多い。


何故ならバカにしても無視していられるが、仕事の邪魔は明確に人の人生設計を阻害しているからだろう。


ギルドで話を聞くとやはり、嫌味を言われるよりもお金が発生するできごとなのに。


提示されている金額よりも割安に、働かなくてはいけない気持ちになるのだと、お酒のせいで酔った人達が愚痴を言っている。


それはファルミリアも同意すること。


討伐に来たのに討伐以外のことに煩わされるなんて、時間外手当てが欲しいくらい。


人付き合い云々という人がいるかもしれないけど、住んでいるわけでもないところで初対面の人に関係を作る意味はどこにもない。


今後二度と会わない可能性の方が大きいのに。


サインを得たファルミリアはぺこりと頭を下げて「それでは」と帰ろうとする。


バイクを出し、それにぽかんとなる人を放置して行く。


虫系魔物はすでに回収しているので、置いておくなという指示にも従ってあげたので文句なぞないはず。


仮に文句を言ってきても音声で残している。


「依頼も終えたし、ギルドに寄って帰ろーっと」


これもファルミリアのオリジナルの一つ。


どこがオリジナルなのかというと、録音魔法はこの世に出回ってないからだ。


だれにも言ったことはない。


切り札故に。


家族にもない。


録音というのは、人に疑心暗鬼を与えてしまう恐れがあるからだ。


またバイクで風を感じつつギルドへ向かう。


「お早いですね」


戻って依頼をこなしてサインを見せて、魔物も売る。


「はい。これ、売ります」


受付の人に告げる。


このお早いですね、の雑談でファルミリアの依頼の速さの理由を探ろうとしている気配はもう慣れた。


ギルド的には依頼が終わればいいのだが、人によっては好奇心で今みたいに聞きたそうにする。


悪いことじゃないけれど、知らせることも教えることもない。


淡々と手続きを済ませて家は帰る。


帰宅した時、おかえりの優しい声音が迎えてくれた。


「あ!」


パッと顔を向けると、ディアドアがこちらを見つめている。


「もう仕事はいいの?」


「片付いた。暫くは受けない」


「なにがそんなに忙しかったのか聞けるの?」


「機密事項のある依頼だ」


「そっか。それは大変だったね」


秘密事項の依頼は拘束時間が多いし、制約も多い。


その分依頼料は高いけど。


「ただ」


「ただ?」


「少し気掛かりがある」


「そうなの?」


ディアドアは目元を暗くして瞳の影を濃くする。


「頑張ったね。アップルティーで自分を労わろうか」


なにか考えている男に声をかけた。


それを見た彼は頷き「そうだな」と椅子に座る。


すぐに飲めるようにしているので、時間を使わずお湯を生成してアップルティーのティーパックを手にテーブルへ向かう。


共にお湯へとパックを浸せば、部屋には甘酸っぱくて落ち着く香りが漂い出した。

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