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ヒロトは呆然と立ち尽くしている。自分の服に目をやると、返り血が散っており、自分の知っている服ではなくなっていた。
「俺が…人を…?」
タイチは仰向けに倒れ、腹部と口から血を流しておりピクリとも動かない。
タイチは死んでいる。
「はぁっ…はぁっ…」
自らの手で人を殺したという状況をあらためて再認識し、呼吸が激しく乱れ、全身が震えだす。
「さすがはご主人様!初勝利、おめでとうございます!」
剣になっていたアイリスは再び発光して姿を戻し、ヒロトの前に現れてから勝利を賞賛した。ヒロトの心情を知りもせず。
「さすが…?さすがだって…!?、馬鹿なこというなっ!俺は…人を殺したんだぞ!?」
「ですがやらなければご主人様が死んでましたよ?」
「っ…!、そもそも…フローラがこんなことをしなければ、俺とあいつで戦うこともなかったんだ!!」
「女神様はあなた達人間のことが大好きなんです!だから人間達が願い事を叶えられるようにチャンスを作ってくれてるんです!、ご主人様だって何か叶えて欲しいことがあるはずです!」
親愛なる女神・フローラの行動を否定されてしまったことでアイリスもムキになるようにヒロトに対して反論を始める。
「だからって殺し合いをさせる必要が一体どこにあるんだ!?、こんなとこにさえ来なければ…俺は…人殺しになることなんてなかった…俺は…」
「ご主人様…」
ヒロトは身体を再び強く震えさせる。しかし今回は恐怖によるものではない、自分がしてしまったことに対しての怒りによって、全身が強く震えるほど力を入れていた。
「ご主人様、願い事を叶えましょう、もうしてしまったことは戻らない…ではせめて、今回のことが無駄ではなかったようにするために、願い事を必ず叶えましょう!」
「アイリス…」
傷心しているヒロトはこの先のことなど考える余裕はなかった。返り血を浴びた自身の手を見る。
「俺は…」
すると途端に、ヒロトの視界がぐるぐると回り始めた。
「なっ…なんだ…これは…」
強烈な睡魔が突然襲いかかり、今にも倒れて眠ってしまいそうになる。
「本日の制限時間がきました。ご主人様は眠りにつき、起きたら一度、現実世界に戻ることになります。そしてまた時間が来たら、再度こちらの世界に来ることになるでしょう」
アイリスの顔がぼやけている、視界の周りが黒に染められていく、あと数秒で限界が来てしまうだろう。
「ご主人様、わたしは信じてます。ご主人様は願いを叶えられる人物だと…では、また明日お会いしましょう」
ヒロトは限界を迎え、瞳を閉じる。
「おやすみなさい」
プツンと意識が途切れ、一瞬視界が真っ暗と化す。
「うわああぁぁぁ!!!」
意識が覚醒し、ヒロトは思いっきり身体を起こした。周りを見渡す、そこは自分の部屋だった。どうやらヒロトは自分のベッドに横になり、眠っているようだった。
「ゆ…夢…?」
確認のためにヒロトはそっと右頬をさすってみる。
「っつ…!」
痛みを感じた。右頬にはタイチにやられた傷がそのまま残っていた。
「夢じゃ…ないのか…」
日光がさす窓に顔を向ける。ヒロトの心の中と対比になるように、今日の天気は綺麗な晴天だった。
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