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鏡の世界を歩く。現実世界と流れている時間は相違ないようで真っ暗な闇の中にほのかに月夜が照らされている。
「あのさぁアイリス、神具のとこに向かおうって言うけどそもそも俺はこんなゲームするつもりなんかないんだけど…」
「えぇ〜!そんなこと言わずに!せっかくここに来たんですから願いを叶えましょうよ!!」
「もし願いが叶うのが本当だとしても戦ったりするんだろ?そんなことろくにしたことないんだから無理だよ」
アイリスは歩みを止めてヒロトの方を向き大袈裟に顔をガバッと近づけて目を見開きながら熱く語る。
「大丈夫です!!人間なんて戦いをしてる人の方が少ないですから!、それに経験がなくても潜在力が高ければ勝手に身体は動いてくれます!」
「潜在力…それもよくわかんないし…」
「わたしが見るにご主人様の潜在力は高いと見ました!なので戦闘もすぐに慣れると思いますよ!もちろんわたしだって全力でサポートしますから!」
潜在力が高いなんて言われてもそもそもその潜在力がなにかを理解出来ていない。アイリスからお墨付きを貰ったようだが目に見えてる訳でもないので実感も全く湧かないでいた。
「そもそも潜在力って…」
「ほら見てください!人間にはできないようですがわたしたちアテンドな透明になることだって出来るんですよ!」
アイリスに新たな疑問を訪ねようとするが、話を聞いていない様子のアイリスはそれを遮り、更なる超常現象を何事もなく披露する。
「勝手に話を進めるなよ!そしてサラッと凄技を披露するな!」
アイリスのどこか抜けた行動に思うように話を進めれないヒロトは困惑する。
「…ほんとに透明になってるのか…?」
「もちろんです!」
おそるおそる先程までアイリスがいた場所に手を伸ばすと確かに髪の毛を触れたような感触が伝わる。
「おぉ…ほんとにいるのか…」
(ここまで超常現象を見せられたらこのゲームの存在を認めざるを得ないな…でもなんでこんなことをフローラはするんだ…?)
「誰かいんのかっ!!!」
「っ!?」
先ほどまでヒロトとアイリスの2人しかいなかったはずの空間に突如聞いた事のない声が聞こえてきた。
突然の介入者につい身構えてしまうヒロトの視線に人影が現れる。
「お、いるじゃねえか、ようやく人に会えたぜ」
視線の先に現れたのは柄の悪いやや大柄な男だった。
「お前もゲームの参加者かい?実は俺もさっきここに来たばかりでよ、何も分からなくて困ってたんだよ、よかったぜ〜俺以外にもちゃんと人がいてな〜」
「あなたは…?」
「おれの名前は澤田太一だ、よろしく頼むぜ」
サワダタイチと名乗る男は初対面のヒロトに対して何食わぬ顔で近づき、腕を伸ばして握手を求めた。
「…雪紫英翔です、よろしく…」
ヒロトは急に登場した初めての自分以外の人間、タイチに対して警戒心を持ちながらも、相手の善意を無下にはできまいと挨拶を返し、握手に応じた。