2 ヒーロー
手に持っていたカバンを放り投げ、迷いなく一直線に駆ける。
「っ!!?」
男の子は接近している車に気づき、恐怖で足を止める。
(下手に動かれる方が助けづらい、好都合だ!)
交差点に侵入したヒロトは男の子を抱えたまま全力で前方に飛び込んだ。
あとコンマ1秒遅れたら接触したかもしれないと思えるほどギリギリで何とか車を回避することができた。車の運転手は直前で気づいたようで1度は急ブレーキを踏んだが、衝突しなかったと理解したや否や逃げるように去っていった。
「ふぅ…大丈夫?」
「う…う…うん…」
男の子は恐怖で身体を小刻みに震わせていた。
「ほら、もう大丈夫だから、学校遅刻しそうなんだろ?」
「うん…でも、なんで僕を助けてくれたの?、お兄ちゃんだって危なかったのに…」
「それは…お兄ちゃんがヒーローだからだ」
ヒロトの返答に男の子はびっくりしつつも目を輝かせた。
「ヒーロー…かっこいい…」
「さぁ、せっかく急いでたのに遅刻しちゃったら今までの苦労が台無しになるぞ、いったいった」
ヒロトは男の子の頭をなでてから、背中を押して後押しする。
「ありがとうお兄ちゃん!!今度あったら必ずお礼するからねー!!」
「いいよそんなの…」
状況に安堵して微笑むヒロトの後ろにスズネが駆け寄る。
「ヒロトくん!大丈夫!?」
「あぁ、なんとかな…」
「もう!無茶したらだめだよ!」
「ヒーローになるために当然のことをしただけだよ」
スズネは困り顔になる。
「まだショウトくんの真似してるの…?」
「当たり前だろ、俺は兄さんみたいになりたいんだ」
「でも…こわいよわたし…」
「…?、なんで?」
スズネは少し表情をこわばらせているがヒロトはなぜそう思っているのか全く理解できなかった。
質問を受け、スズネは感情を抑えきれずに語気を強めて訴える。
「だって!、ショウトくんがいなくなって…ヒロトくんまでいなくなったら…わたし…いやだよ…!」
涙目になりながら訴えかけてくるスズネを見てヒロトは驚きと同時に焦りを始まる。
「ご、ごめん…そうだよな…俺まで死んだら意味がない…うん、無理はしないように頑張るよ」
こぼれそうになる涙を必死に抑えながらうつむいているスズネの頭をなで、気持ちを落ち着かせてから歩みをを再開する。
(スズネは兄さんが死んだ時、俺以上に泣いてくれた…そんなスズネを泣かせるなんて、ダメだな俺は…)
ーーーーー。
「黙祷」
普段は朝礼の時間だが、今日は全校生徒で体育館に集まり追悼の意を示す時間を設けられた。
しかし、昨今の状況でこういった時間も珍しくなくなってしまったのが実情であり、感覚の麻痺か、身近な人の死にも関わらず慈しむ心が薄れてしまった者もおり、黙祷を真面目に行わない者も少なくない。
「………」
ヒロトは最近のこの状況に苛立ちを覚えていた。
【見つけた…】
「!?」
正義の心を燃やしながら黙祷を続けるヒロトの脳内に声が聞こえた。
ハッとしてすぐに周囲を見渡すがヒロトの周りは皆しっかりと黙祷を捧げており、声を発した様子はない。
「なんだ…今の…」
その後は何事もなくいつも通りの授業、いつも通りの部活を過ごし、いつも通りの時間に寝床に着いた。
(兄さん…俺はヒーローに…兄さんみたいになれるかな…)
何者かに見られていることも知らずにヒロトは1人考えふける。
(身近な人の死も守れるような…自分を誇れるヒーローに…)
ゆっくりと瞳を閉じ、夢の中に入ろうとするヒロト。
「っっっ!!!」
完全に落ちかけていた神経が一気に覚醒する。
目を開けるとそこには見たことない光景が広がっており、ヒロトはその空間で宙に浮くように漂っていた。
「こ、ここは…どこだ…!?」
「あなたは選ばれました」
「だれだっ!?」
背後から聞こえた声の主を確認するために叫びながら思いっきり身体を振り向く。
そこには同じ人間とは思えないほど美しい女性の姿があった。