1 雪紫英翔
「おはよう、兄さん」
雪紫将翔 享年19歳
兄が亡くなって3年が経つ。
敷地内には雑草1本となく綺麗に整地されており、いかにこの場所を大切に扱っているかが誰の目にも見てわかる。
墓石に鳥のフンが付いていたので水をかけ、フンをこそぎ取る。
「英翔くーん!早く行かないと遅刻するよー!」
ちょうどやるべき作業を全て終えたところに声が届く。
「行ってきます」
兄、ショウトの墓石に挨拶を済ませ、声の主の元へ向かう。
「おはよ、スズネ」
田代鈴音 小学校から現在の高校まで同じ学校に通う、つまるところ幼なじみだ。
「おはようヒロトくん、早く学校に行こ!今日は家出るの5分遅れちゃったから急がないと!」
スズネは毎日ヒロトと共に通学する。ヒロトは現在父親と2人で暮らしているのだが父は単身赴任中な為、実質ひとり暮らしとなっている。
ヒロトは時間にルーズなこともあり、1人だと簡単に遅刻してしまう、そのためスズネが一緒に通学してあげている。
「スズネは心配症だなぁ、いつも20分前には着いてるんだから5分遅くなったくらいなら大丈夫だよ」
「えぇ〜…そうかな〜…」
そう言いながら2人は学校をめざして歩みを始めた。
少し進んだところでスズネ口を開く。
「ねぇヒロトくん聞いた?、D組の上田さん、亡くなったんだって」
「え…そうなの?」
「うん、交通事故だって」
ヒロトの表情が少し険しくなる。
「まだ5月なのに、今年に入ってもう3人目だ、どうなってんだこの世の中は…」
「本当だよね…5年前から急に世界の死者数が莫大に増え始めて…そりゃあ高齢化社会が進んでるからっていうのもあるだろうけど…死亡事故も年々ワースト記録更新してるって言うし…」
「世界人口が増えすぎて地球がダメになるから、無理やりにでも人口を減らすために故意的にやってるって説も出てきてるし、異常だよな…」
「うん…こわいよね…」
表情を曇らせながら通学している2人を追い越し、交差点に向かう小さな男の子。
「あの子も遅刻かな?」
男の子が交差点に入るが、信号はすでに点滅を始めていた。
ヒロトは嫌な予感がし、道路を見渡すと1台の車が交差点に向かっていたが、こともあろうに男の子に気づいていないのか全く速度を落とさず交差点に突入しようとしていた。
「っ!、まじかよっ…!!!」
ヒロトは呟き終わる頃にはすでに交差点目掛けて全速力で駆け出していた。