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07 冷

 野営屋舎の中は思ったよりも涼しかった。

「こりゃ助かるな。なにせ、ぼくは蒸風呂を想像していたんだから」

 橋本がいった。すると、

「ああ、それはですね」

 と、満悦の表情を浮かべてフリップスが答えた。天井を指差す。

「あのガラス張りの天井のおかげなんです」

 ダグ・フィリップスが解説した。

「ご存じだろうとは思いますが、放射冷却と呼ばれる現象を利用しておるのです。……天気の良い晴れた夜に気温が下がり、寒い思いをされた経験は、皆さん方にもおありでしょう。これは地球の表面を覆っている通称〈大気の窓〉を通して、熱が対流圏に逃げてしまうことによって起こります。その〈大気の窓〉は、波長にして、八~十三マイクロメートル(一万分の八~十三センチメートル)のところにあります。つまり、青空からの放射スペクトルは可視光線の範囲(十万分の四~八センチメートル)では、ほとんど途切れることのない連続スペクトルなのですが、もっと長い波長、熱線の範囲(一万分の一~百センチメートル)では、スペクトルにぽっかり孔があいているというわけですな。これが〈大気の窓〉です。したがって、八~十三マイクロメートルの波長の光だけしか通さない半透性の膜で屋根を作れば、この波長の熱線だけが部屋から出ていき、外からは熱が入らないので、自然に部屋が冷えるという状態が作り出せるわけです」

 それから、フリップスは全員を寒暖計のところに連れていった。目盛を指差し、

「もっとも、純粋な計算では十五度下がるはずだったんですが、実際は、この通り、約八度下げるのが精一杯でした」

 すると、西田承子がおずおずとした口調でフィリップスに尋ねた。

「あの先生、もしかして夜は?」

 そのときのダグ・フィリップスの表情の変化は見ものだった。渋い顔をして理学博士は答えた。

「ご名答です、西田博士。確かに夜は大変冷えます」


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