12/17
11 想
現れたテンポブロッケンの巨大さには想像を絶するものがあった。はじめ、それは半径六十キロ――すなわち高さ六十キロ――の時間風半球のほぼ中央に、ぼんやりとした赤い影として現れた。そして、またたく間に、そのまわりを色彩豊かな原色に染め、急速に膨れ上がっていったのである。観測によると、現在その高さは二十キロにも及ぶ。
「おーきいなぁ……」
知らせを受けて表に跳び出した関谷典正が、いくぶん陰ったとはいえまだまだ尋常を越える砂漠の暑さを忘れたかのように、そう呟いた。彼の近くいた数十人の各国科学者たちも――なかば放心したように――同様の感想を漏らしていた。
「ぼくたちは蟻ですね。まったく比較にならない。ねえ、そうでしょう、沢村さん? 奈良丸先生?」
関谷が思わず声を発した。沢村と奈良丸が頷く。
「自然の真の姿には、いつも驚かされます」
奈良丸が答えた。だが、そういう彼の表情はどこか冴えなかった。
「人間は自然を操ろうなどとしてはいけないんです」
しばらくしてから、奈良丸がポツリと呟いた。