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00 予
日本を遠く離れたここリチア砂漠で、恋人の承子は悪鬼に憑かれ、いまにもおれに襲いかからんと殺人衝動に眼を赤く燃やしている。窓の外では、巨大なテンポブロッケンとして時間球の中に現れた〈神〉が、すでに何人もの技師や物理学者――新東西陣営エリートの、多くは超能力を備えた時間風の調査隊員たち――を血祭にあげていた。〈神〉の嘲笑は、どす黒い塊となって、おれの右脳の中でますますうねり、脹らんでいく。くそっ、おれの機械感応力はどうなっちまったんだ! 怖れていた能力の枯渇が、よりにもよってこの瞬間に訪れたのか? だが、おれの唯一の親友、思考機械であるブラック・ハムからの返信はない。このまま死ぬのか? ようやく真の意味で心を開いてくれた承子に首を絞められ、〈兄貴のいる〉極楽浄土に向かわねばならないのか?
沢村の意識が拘泥した。だが、まだだ! まだおれはくたばる気はない。最後の気力を振り絞って、沢村はそう思った。そして己の能力を、今度は恋人、承子に向けて全解放した。