メルティとレイモンド 4
2話の続きです。
「俺とメルティはそんなに会っていなかったのか…」
「そうですね。ふふ。」
メルティは急に笑い出す。
「メルティ?どうしたんだい?」
不思議そうにレイモンドが問いかける。
「そんなにもお会いしていなかったのに、この前お会いしたときも今もレイモンド様は普通にされていて、まるであのときに時間が戻ったようだと思ったのですわ。」
「そうだな。」
ふたりとも過去を振り返ったのだろう。何とも言えない表情をしている。
「メルティ」とレイモンドは優しく微笑み、慈しむような声で呼ぶ。
「はい、レイモンド様。」
「あのとき、慕っている相手を今でも慕っているかい?」
「そんなこと訊くなんて、レイモンド様はやっぱり意地悪ですわ…。」
「昔、言っただろ?俺はメルティにだけ意地悪なんだ。
会えなかった間もカイルから君の話を聞いたりしていた。俺は昔も今も狡い大人だ。」
「…レイモンド様、あのときから、私の気持ちは変わっておりませんわ。」
「メルティ」
レイモンドがメルティの手を取り跪く。
「はい!そこまでー!」
勢いよくカイルが入ってきた。
「お、お兄様!?」「カイル…」
レイモンドに手を取られているメルティをみて
カイルは勢いのままレイモンドに詰め寄る。
「レイ!」
「お、お兄様、止めてください!レイモンド様は…」
メルティの言葉を制してレイモンドがカイルと真剣に向き合う。
「カイル…やっと俺は…」
「あー!そういうのはふたりきりのときしてくれ!兎に角、今は父上が一緒なんだ!」
コーラル公爵は娘のメルティを溺愛しているのは社交界で有名な話だ。
ルドルフとの婚約の際も「娘を政治利用したくない!」と陛下にはっきり言ったらしい。そんな公爵がこの領主館へ来たのだ。
「お父様がいらしているのね!」
メルティは久しぶりに父親に会えることを喜んでいるが、カイルはレイモンドに忠告する。
「レイ、父上に殴られる覚悟でいろよ。」
「な、殴られるって、お兄様!?」
父親は穏やかな人だと思っているメルティは驚いていいる。
「公爵に何か言われる覚悟はある。」
真っ直ぐにレイモンドは応える。
「お前の覚悟はわかった。ただ、今はまだ客として晩餐に参加しろ。メルティとの話を父上とするのはお互いに気持ちを通わせてからだ!」
カイルは部屋を出ていった。
「レイモンド様…」
「メルティ、晩餐の後にでもやり直させてくれないか?」
「もちろんです。では晩餐までこちらでお待ちくださいませ。私は父に会って参りますわ。」
「ああ。」
メルティが部屋を出ていきひとりになるレイモンド。
「はあ…メルが可愛すぎる…
この前も思ったけど、会わない間に綺麗になってるし…」
レイモンドはソファに凭れ掛かりつぶやいた。
カイルの友人として初めてメルティと会ったレイモンドは一目で恋に落ちていた。
確かにカイルに言われて自分の気持ちに気づいたレイモンドだが、考えてみたら普段なら必要最低限の会話すら令嬢とはしたくないのに自ら会話をしていたことに当時はとても驚いた。
何度も時間を共にしていてメルティの気持ちが自分にあることも少なからず気がついていた。
それでも、彼女の世界を狭めるようなことはしたくなかった。デビュタントして彼女にはきっと縁談がたくさんあるだろう。その筆頭はきっと甥である第一王子ルドルフだろうとわかりきっていた。
そして予想通りルドルフの婚約者になったメルティ。ルドルフの横で笑顔を絶やさない彼女を見たくないと考えながらも、王太子妃としての教育を受けるために王宮へ頻繁に通っていた彼女を一目見たいと行きたくない王宮へ行ったこともある…
「当時の俺は自分からメルティへ想いを告げないほうがいいとか言っておきながら、振り返るとダサいな…」
自嘲気味にレイモンドは笑う。
「スペンサー公爵様、晩餐のご用意ができました。」
執事長か呼びにきた。
「スペンサー公爵、お久しぶりですな。」
「コーラル公爵、お久しぶりです。
諸外国を周ることも多くてなかなか社交界にも顔をださないからね。」
「倅はご迷惑をおかけしてないでしょうか?」
「とても助かっているよ。」
「それはよろしゅうございました。」
和やかなムードで晩餐は終わったのだった。