婚約破棄の裏側とその後
「いよいよ今日か。やっとメルティに堂々と話しかけることができる。どれだけこのときを待ちわびたか…」
ルドルフの誕生パーティ当日。レイモンドは自分でも浮ついていて仕事が手につかないことが分かっていた。そこはカイルがサポートすることでこの日の分の執務は滞ることなくできていた。
「では、行ってくる。」
「閣下、行ってらっしゃいませ。」
レイモンドにとって普段は行きたくない王城だが、今日だけは早く行きたいとソワソワしていた。
レイモンドが会場の前に到着すると入口が少し開いているのに気がついた。
「メルティ·コーラル公爵令嬢!
貴様は俺の寵愛を受けているソフィア·ヴォーグ男爵令嬢に数々の嫌がらせをしたな!
性悪な女など、妃に相応しくない!婚約破棄だ!」
ルドルフが声高らかに宣言しているのがよく聞こえた。やっていないと反論するメルティの声に心が踊る。
「メルティの声だ…。」と感動すらしているレイモンド。
彼女がこちらへ向かってくるのが見えたのて、咄嗟に見えない位置へ移動する。
メルティは肩を落として出てきた。ルドルフを慕っていたのだろうか…そんな考えが過るが、レイモンドは彼女へ声をかけた。
「メルティ嬢。」
レイモンドは久しぶりに間近で見る彼女に緊張しつつも、会話をする。
送っていくと言ったら、コーラル邸でお茶をしないかとメルティが誘ってきた。しかもその理由が「私ももう少し貴方様とお話ししたいのですわ…。」ときた。
断る選択肢はレイモンドにはなく、楽しいひと時を過ごすことができたふたりだった。
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
「宰相閣下、少々お時間よろしいですか?」
婚約破棄劇の翌日、カイルは王城で宰相と対峙していた。宰相はメルティを狙っている侯爵子息の親だ。
「カイル殿、どのようなご用件で?」
訝しげに返事をする宰相。
「昨日のルドルフ殿下のパーティの件はご存知ですよね?」
「ん?あ、ああ。息子から聞いている。」
「我が妹のメルティがヴォーグ男爵令嬢を虐めているから殿下は婚約破棄を言い渡した。そうですね?」
「そのようだ。」
「ちゃんと調べたのでしょうか?」
「息子がコーラル嬢がヴォーグ嬢を呼び出しているのを目撃して…」
「それは事実ではないとしたら?」
「息子が嘘を言っていると?」
「はい。証拠として挙げられた件の令嬢が虐めを受けていたという日ですが、挙げられた日全て妹は王城にいると確認が取れています。
証人は妹の王妃教育を担当している講師たちです。
妹が細かいところまで質問するので、規定の時間では収まらないので、前後で別の時間を取ってもらっているのです。」
「そ、そんなことが!?」
「こちらが証拠です。それと、今から陛下がお戻りになるまでに宰相閣下には少し現実を見ていただこうと思っております。」
「現実…?」
「こちらを。」とカイルはパーシヴァル皇帝からの書状を渡す。
「ルドルフ殿下が王太子ではなくなるのは予想がついていた。最大派閥のコーラル家の後ろ盾をなくされたのだ。ルドルフ殿下に残るのは国王夫妻の第一子というブランドだけだ…
そして、君たち兄妹は皇位継承権を持つ尊き人物だったとは…」
椅子から立ち上がり、宰相は深々と頭を下げる。
「カイル様、申し訳ありませんでした。
我が愚息がメルティ姫を陥れようとしたこと、謝罪だけでは済まないと思っています。私は宰相職を…」
「宰相閣下、辞める必要はありません。
私は妹とルドルフ殿下の婚約破棄を喜んでいるのですから。
しかしながら、宰相閣下のご子息は今回の件で上手く動いてくれましたよ。」
「どういう意味でしょうか…?」
「殿下の側近の中にコーラル家と縁のある伯爵子息がいましてね。彼とは仲がいいんですよ。私と私の主がついているとは言っても伯爵子息に手駒にされる者を次期宰相に推せるかどうか…。」
「…返す言葉もございません…。」
「ご子息の再教育か次男を教育しては如何です?」
「カイル様の御心のままに…」
「宰相閣下、今現在はこの国で私に爵位はありません。どうか普通にしてください。
私の主も貴方の辞職など望んではいないのですから。」
カイルは宰相の執務室を後にした。




