レイモンド·スペンサー 2
「お前たち兄妹が皇位に就く可能性はあるのか?」
「従弟のルイン皇太子は全ての面で秀でているから、俺や妹が皇位に就くことはまず有り得ない。ただ…」
「ルイン皇太子の婚約者にメルティを。と皇帝陛下が仰ったり、それを推す声が事情を知っている高位貴族から出ているんだな?」
メルティが誰かの婚約者になる…そう思ったたけでレイモンドの心は痛んだ。
「ああ。母上は反対しているが、自分がコーラル公爵家へ嫁ぐ際に現皇帝が尽力してくれたこともあって、どうしたら…と困り果てている。
なあ、レイモンド…」
カイルは真っ直ぐレイモンドを見る。
「カイル、それ以上は言うな…言わないでくれ…」
何を言うのか分かっていたレイモンドはそれを止める。
「だけど…!お前なら…!」
「メルティへの気持ちは本物だし、彼女も俺を見てくれていると思っている…
だが、俺では駄目なんだ…メルティの輝かしい未来を大人の俺が狭めてしまうようなことをしてはいけない…
彼女にはこれからいろいろな世界を見てほしい。それはお前も一緒だろ?」
困り果てたレイモンドはカイルに気持ちを打ち明ける。
「っ…!!妹の気持ちはどうなるんだよ!?」
「彼女の気持ちには応えられない…応えたらいけないんだ…」
「……お前の気持ちがよく分かった。
殿下、申し訳ありませんが少し暇をください。」
カイルは執務室を出ていった。
「俺だって、自分の手でメルティを幸せにしたいさ…
だが、デビュタントすれば、彼女の世界は拡がる。本人も知らない本人のことを裏でコソコソと知るような狡い大人が、彼女に思いを告げてはいけないんだ…
カイルにメルティへの気持ちを話したときに殴られなかっただけ有難いと思おう…」
レイモンドはそう独り言を呟いた。
カイルにメルティへの想いを告げた後から仕事が忙しくなった。
仕事に没頭しようとするも考えるのはメルティのことばかり。レイモンドらしからぬミスをすることもあったが、優秀な側近でもあるカイルによって大事にならずに済んだ。
「レイモンド、今度久しぶりに屋敷へ来いよ。
お前にも息抜きが必要だろ?それに、メルティはもうすぐデビュタントだ。」
カイルの言葉を聞いて、メルティと個人的に会うのは最後にしよう。と決意した。
ー·ー·ー·ー·ー·ー
久しぶりに会うメルティは相変わらず可愛い仕草でレイモンドの心を満たしてくれる。
「彼女と会うのは最後…」という気持ちを持っていながら、このままときが止まればいいとも思ってしまう。
そんなとき、メルティがレイモンドにルドルフのことを訊いた。
「会ったこともないのに、メルティはルドルフを…」そんな暗い気持ちになったレイモンドは彼女へ意地悪な質問をした。
「メルティは王太子妃になりたいのかい?」
レイモンドが言うと彼女はなりたくないと答えた。更にレイモンドが「どうして?」と問いかけると、彼女は意を決したような表情でレイモンドを見て、
「私、お慕いしている御方がおりますの!」
と言った。
その瞬間、レイモンドの胸がドキドキする。だが平静を装ってメルティに想われるなんて羨ましいと返事をしようとする。
メルティの真剣な表情に言葉を途中で止める。
「あの、レイモンド様、私…!!」
レイモンドはこれ以上彼女と一緒にいては攫ってしまうかもしれない。そうでなくても今日を最後に会うのは止めようとしていたのに、彼女が告白をしてくれたら、気持ちに応えてしまうと思った。
だから、メルティへ告げる。
「メルティ、その人には想いを告げないほうがいい。」
その声は発した本人ですら、聞いたことがないほどに酷く冷たい声だった。そんな声を耳にしたせいか、メルティは泣きそうになるのを堪えている。
「メル、ごめんね…狡い俺を許してくれるかい…?」
「…いや…です…絶対に…許しませんわ…」
「メルは我儘だね…」
「レイモンド様は…意地悪です…」
「うん。俺は君にだけ意地悪だよ…。」
その会話を最後にレイモンドとメルティは王弟と公爵令嬢の立場に戻ることを決意した。




