レイモンド·スペンサー
レイモンド·スペンサー。彼は国王の異母弟である。ルドルフがデビュタントしたと同時に王籍を離れてスペンサー公爵家当主となった。
彼は20歳を前にして運命の出会いをした。
友人で側近でもあるカイル·コーラル公爵子息の妹のメルティである。
名前は以前から知っていたが、年齢が離れているので特に気に留めていなかった。
「初めてお目にかかります、レイモンド王弟殿下。コーラル公爵エリオットの娘メルティと申します。」
カイルに屋敷へ招かれて訪れたときに挨拶をされた瞬間にレイモンドは恋に落ちていた。
正確に言うと、カイルに言われて気がついたようなものではあるが、レイモンドにとっては初恋であった。
レイモンドは容姿がよかったが、よく言えば冷静、悪く言えば冷たい男で令嬢とは必要最低限の会話すらしないようなタイプであった。
ただ執務を熟し、食べて寝るだけ。そんな日々を送っていたレイモンドはメルティと出会いで生活が一変した。
彼女のことを考えると自然と笑顔になる。笑顔など小さい頃にカイルと遊んでばかりいたとき以来だろうか。カイルにも「お前が笑ってるの久しぶり過ぎて怖い!何か仕事でも押し付けるつもりだろ!?」と言われるほどだった。
会うたび、話すたびにメルティのことを大切にしたいと思うようになっていた。
彼女からも好意が感じられていて、とても心地よい関係を築けていた。
たが、レイモンドは王弟であり彼女は甥であるルドルフの婚約者候補の筆頭だ。年の差だってある。
このままの心地よい関係を続けたほうがいいのではと考えてしまう。どうせ、ルドルフの婚約者になったら今のように会えないのだから…
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
もう少しでメルティがデビュタントする頃。
「カイル、お前俺に黙ってることがあるだろう?」
いつものように執務室で仕事をしていたときに、レイモンドはカイルを問いただした。
「レイモンド殿下、黙ってることとはなんのことでしょう?」
カイルがレイモンドを殿下と呼ぶときは質問の意図は理解しているが答えたくないときだ。
「彼女…メルティとお前の正体だ。」
レイモンドの執務は領地経営もあるが、メインは他国との外交だ。ノザムで過ごすより他国で過ごすことが増えていたレイモンドは隣国パーシヴァル帝国で知ってしまったのだ。
「お前の本当の名はカイル·ローバンス·パーシヴァル·コーラルなのだろ?そして彼女はメルティ·ローバンス·パーシヴァル·コーラル。ローバンスを名乗れるのは皇位継承者のみ…つまり君たち兄妹はパーシヴァル帝国の皇位継承者なのだろ?」
「レイ、何で分かったんだ?」
カイルは降参とばかりに口調を気楽なものにお茶を用意しながら返事をした。
「パーシヴァル帝国で皇帝陛下に拝謁する機会があっただろ?お前とコーラル夫人は陛下にそっくりだった。」
「伯父上と似てると言われたことは多かったよ。
でも、このノザム国でパーシヴァル皇帝と謁見することができる身分なんか限られているから、バレないと思っていたのだが…。
因みに、メルは祖母に似ているぞ。祖父をいろいろな方面から支えた史上最も素晴らしいと謳われた祖母に。」
「はあ…俺は隣国の姫君のことを好きになってしまったのか…」
「あのなレイ、メルはこのことを知らないんだ。
母上の出身がパーシヴァルであることは知っているが、祖母の生家の公爵家の性を名乗っているからな。」
「そうか。だからお前は知っているのだな。そして、コーラル夫人は継承権を放棄したのだろ?コーラル公爵と婚姻するために…」
「そこまで調べついてるのか!?じゃあ、隠しても仕方ないから話そう。
改めまして、パーシヴァル帝国皇位継承権第二位のカイル·ローバンス·パーシヴァル·コーラルと申します。」
そして、カイルはレイモンドに話し始めた。
コーラル公爵現当主夫妻には出会った当時それぞれ決められた婚約者がいた。まあ、公爵家嫡男と皇女なのだから当たり前ではあるのだが。
それでもふたりの添い遂げたいという意思は固く、駆け落ちでもされては困ると当時の皇帝が皇位継承権を放棄し、ふたりの子どもに継承権を引き継がせることなどを条件に婚姻を許可した。




