婚約破棄
メルティ·コーラル。彼女はこの国の公爵家の令嬢であり、そして王太子でもあるルドルフ·ノザムの婚約者だ。
友人を集めたルドルフの誕生日パーティでのこと。
「メルティ·コーラル公爵令嬢!
貴様は俺の寵愛を受けているソフィア·ヴォーグ男爵令嬢に数々の嫌がらせをしたな!
性悪な女など、妃に相応しくない!婚約破棄だ!」
「私は何もしていませんわ、ルドルフ様。」
ソフィアがニタニタとメルティを見下ろしながら、猫なで声でルドルフに擦り寄った。
「ルド様!私とても怖かったのです!
階段から突き落とされたときは死ぬかと思ったのですが偶然ルド様が通りかかって助けてくださって、とても嬉しかったです!私たちは運命の出会いを果たしたのですよね!」
「ああ。そうだよ、ソフィア。あのときは俺も驚いたが君と出会わせるためだったならば、メルティにも少しは感謝しなくてはならないな!」
「まぁ!ルド様ったらぁ!」
恋人のように睦み合うルドルフとソフィア。
「婚約破棄、承知しました。失礼します。」とメルティはその場を辞することにした。
他の参加者たちは「コーラル様が嫌がらせ?」と疑問に思う者たちもいれば「やっぱり、傲慢な公爵令嬢だったのか!」とコソコソしている者もいた。メルティは会場を出るまで皆の視線を集めていた。
元々、メルティとルドルフが婚約者となった経緯は、ルドルフが彼女に一目惚れしたのがきっかけであって、メルティの気持ちとは全く関係がなかったのだ。
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
それはメルティがデビュタントして少ししたときに参加した夜会のときに起こった。
兄であるカイルにエスコートしてもらったので、ファースダンスを踊ろうとメルティがカイルの手を取ろうとしたときだった。
「メルティ·コーラル公爵令嬢、僕はお前に惚れた!僕の婚約者になれ!」
第一王子であるルドルフがメルティとカイルの間に割って入り、言い放ったのだ。
「えっ!?」
ルドルフはメルティの驚きを無視して言葉を続ける。
「どうだ?光栄だろ?近い将来、君は王太子妃で、ゆくゆくは王妃になれるぞ?」
その発言を聞いて、固まってしまったメルティを心配してカイルが発言する。
「ルドルフ殿下、我が妹を見初めていただき光栄に存じますが、この場で発言するのは如何なものかと。後日にでも…」
「そうだな!婚約するにしても陛下たちにも話さないといけないからな!僕としたことがうっかりしていたようだ。カイルよ、感謝するぞ!」
盛大な勘違いをしているルドルフと内心呆れるカイル。そしてまだ状況が飲み込めていないメルティ。
周りはルドルフの行いに驚いている。
「コーラル公爵令嬢…いやメルティ、踊っていただけないか?」
「光栄にごさいます、ルドルフ王子殿下。」
「メルティ、僕のことはルドルフと呼んでくれ。」
「あっ、は、はい…。」
メルティはカイルに助けてほしいと視線を送るも、同情の眼差しを向けられてしまった。
〜♪〜♪
「メルティはダンスが上手いな。とても踊りやすいよ。こんなに踊りやすい令嬢は初めてだ。」
「そうなのですか?殿…いえ…ルドルフ様のリードが素晴らしいからであって、私の腕前など…
ですが、とても光栄ですわ。」
「君は謙虚なんだな。増々気に入った。」
あっ、逆効果だったわ…と後悔したが時既に遅し…
ルドルフがさらに密着してきてメルティはとても大変な思いをしたのだった。
「ルドルフ様、ありがとうございました。」
一曲目が終わり、ルドルフから離れカーテシーするメルティに連続して踊ろうと誘われそうな予感が頭を過る。
「殿下、娘と踊っていただけますかな?」
そんなときにメルティとのダンスが終わったのを確認してから、父親たちが令嬢を連れて集まってきた。
「それでは、失礼いたします。」とメルティは淑女ぎりぎりの早足でカイルの元へ逃げた。
「め、メルティ!」とルドルフの声が聴こえた気がしたが、振り向くことはしなかった。
「お兄様!」
「メル、お帰り。災難だったね…」
「お兄様、助けてくれたっていいではありませんか…」
「おいおい…いくら俺といえども王族に向かって先に踊るのは私だと言える訳がないだろ?」
「分かってますけど…
お兄様、王子の婚約者だけは嫌ですわよ…?」
「うーん…兎に角、もう少ししたら今日は帰ろう。
父上と母上が明日の昼にはお戻りの予定だから、相談しよう。」
「はい…」
しかし父親であるコーラル公爵への相談も虚しく、数週間後に婚約の打診がきてしまう。
「嫌ですわ…」と抵抗を見せたいメルティだったが、公爵令嬢として、断ることは出来なかったのだった。
ソフィアの口調を直しました。
続きを制作していて、変な喋り方を打つのが面倒になってしまったので…