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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三題噺もどき

結婚式

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくはち。


※匂わせ程度のつもりですが、同性愛表現アリ※

 お題:蜜柑・慰める・清廉




 目が覚めるような、とても気持ちのいい青空が広がっている。

 雲一つない、美しすぎるほどの青。

 絵にかいたような、素晴らしい青。

 今日のこの日にお似合いの―結婚式を執り行うには完璧過ぎるほどの。

「……、」

 それもこれも、あの人の日頃の行いのよさだろうと、確信している自分がどこかにいる。

 今日は、学生時代の同級生の―大好きだった、今でも大好きで、忘れられなくて、ずっと一緒にいたいとまで願ったあの人の、結婚式。

「……、」

 これまでも、何度か友達の結婚式には参列していたので、必要なものや服装などは分かりきっている。

 しかし、気持ち、ほんの少しだけ、いつもより気合を入れて支度をしてきた。

 なんと言ったって、あの人の大事な、大切な、一生に一度しかない素晴らしい日だ。

 祝うべき日だ。

 友として、祝福をめいっぱい伝えて、これからを願うべき日だ。

「……、」

 それに、ありがたいことに、友人代表スピーチとやらも頼まれてしまっている。

 一番の親友であるあなたに頼みたいと、あなたにしかお願いができないと、そう言われてしまっては断るわけにもいくまい。

 そもそも、自分の中にそれを断るという選択肢はミリとも存在していなかったが。

「……、」

 あの人の事を思い、これからの事を思い、これまでの事を思いながら、綴った言葉をうまく伝えられるかは分からないが、いいものにはなったのではないかと自負している。

 学生の頃の思い出、社会人になってからのこと、そしてこれからのあの人の事をつらつらと綴り、願うこの手紙を読めることを、伝えられることを、私は心の底からうれしく思っている。

「……、」

 それらの言葉を自分の中で反芻しながら歩いていると、受付にたどり着いた。

 挨拶もそこそこに、受付を済まし、会場へと向かう。

 とてもきれいな、美しい教会だった。

 窓にはステンドグラスがはめられ、幻想的な空間を作り出している。

 白を基調とした空間にほんの少しの彩を添え、芸術品のような美しさを醸し出していた。

「……、」

 席の端の方にも、これまた白い花束が飾られ、青々とした葉が生き生きとしていて、これまた美しかった。

 全体に目をやると、一番前の席には新郎新婦それぞれの親族たちがすでに集まっていた。

 その後ろの席から友人たちが並び座っているようだ。

 その中に、知り合いを見つけ、声をかけた。

「―久しぶり、」

 そこから、ほんの少し会話が弾み、いつの間にか式の開始時刻となっていた。

 式の開始の合図とともに、シン――と静まり返ったその場は、それだけで清く美しい空間へとなり果てる。

 式は、粛々と進められていく。

 美しい音楽と、大勢の拍手に包まれ、新郎がやってくる。

 親族の誰かなのか、はたまた友人の誰かなのか、すでにすすり泣く声が聞こえてきた。

「……、」

 確かにこれは、少々くるものがある。

 知り合いの結婚式というのは、こんなにもだったかと、自分の事なのに戸惑う。

 拍手が止み、次は新婦の入場。

 静かに開かれていた扉の先に、真白な美しいドレスを身に纏ったあの人が立っていた。

 ご両親とともに、静かに歩き始める。

「――、」

 誰もが、息をのんだであろう。

 その美しさに。

 その、神々しさに。

 その、恐ろしいまでに洗練されたあの人の存在に。

「――、」

 一拍置いて、惜しみない拍手が送られる。

 薄いヴェールに覆われたあの人は、どこか嬉しそうに、それでいて寂しそうに、微笑みながら歩いていく。

 先に立っている新郎のもとへ、歩いていく。

「……、」

 静かに歩いているその姿は、女神が歩んでいるようにも見えた。

 新郎の元へたどり着き、両親の手を離れる。

 教会の祭壇に立つ二人を、この場にいる全員が静かに見つめる。

「……、」

 私は、あの人を初めて見た日の事を思い出した。

 5月の頭ごろ。

 夏が始まろうとしていたあの日。

 とても美しい人だと思った。

 どこまでも清廉で、美しい人だと、そう思った。

 ちょうど同じころに花を咲かせる蜜柑の白い花のように可憐だと思った。

 太陽のように明るいその実は、口にすれば、ほんの少し甘かったり、すっぱかったり、苦かったり―彼女もおとなしいように見えて実のところ、とても人間らしい人間だった。

 それでいて、私とは少し違うところに存在しているような、そんな人だった。

「……、」

 祭壇に立つあの人を見つめる。

 清廉な、どこまでも清く美しいあの人。

 その姿は、この現代に、この日ノ本の国には似つかわしくないくらい、この教会という場が似合っていた。

 女神か、天使か、神のお告げを人間に伝えんとするものが、この場に降り立ったのかと思う程に。

 あの人がいるこの教会という場所は、ひどく清らかで、美しくて、懺悔をして慰めを、許しを請う場としてあれば素晴らしいと思った。

「……、」

 そんな独りよがりの思考で、美しいあの人を見つめる。

 式は淡々と進められ、誓いの言葉が交わされた。

「――、」

 あぁ、これであの人は、私のものにはなってくれない。

 もう、あの人を愛することはできない。

 もとより、愛したところで何も生まれはしない。

 何も変わりはしない。

「――、」

 叫びたかった。

 泣きわめきたかった。

 その人を返せと、私の思い人を横取りするなと。

 けれど、けれど、それは出来ないのだ。

 あの人が決めたことだから。

 隣に立つ新郎と、一生を添い遂げると誓ったのだから。

 私の大好きな、あの人が決めたのだから。

 それなら遠くから、幸せを願おうではないか。

 あの人のこれからを、これまでを。

 ―二人で過ごしたあの日々を思いながら。


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