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ホラー短編 「変な場所」

作者: Hiroko

私の家にですね、変な場所があるわけですよ。

そんなこといきなり言っても、何のことだかわかりませんよね。

頭の中を整理します。

なにせ私は、物事を順序良く説明したりお話したりするのが苦手なのです。

なのでこの話も、面白くお聞かせできればいいのですけれど、どうにもたぶん、私のことですから退屈な話になるかもしれません。

どうぞご容赦くださいませ。

私の家は、古い古い木造の二階建ての家です。

玄関を入ると、左手に二階へ上る階段、右手はまっすぐ台所へ向かう廊下があるわけです。

台所に行くまでに、右手に二つ部屋があります。

けどまあ、その二つの部屋は、特に何の変哲もない部屋なので、説明は省きます。

私がお話したいのは、その台所へ向かう廊下、階段のちょうど下あたりにですね、変なスペースがあるわけですよ。スペースと言いますか、最初に私が言った、変な場所のことです。言い方を変えるとややこしいですね、すみません。

で、そこがどんな場所かと言いますと、大きさはどれくらいでしょう……、五十センチくらいでしょうか、測るものをもっていないので、私の手で測りますが、ちょうど肩幅くらいです。肩幅くらいなので、五十センチくらいだと思うのですが、どうでしょう。小学生がよくやる「前にならえ」をした時より少し大きいくらいの幅です。

まあ五十センチとしましょう。だいたいそれくらいの正方形の場所があるのです。

ぽっかりと、階段の下に、五十センチの正方形の空間があるのです。

そしてそこはちょうど胸の高さくらいの台になっていて、いろいろな飾り物が置いてあるのです。

何やらよくわからないエジプトの絵のようなものが入った写真立てや、コーヒーカップに入れられた造花、小さなひよこのぬいぐるみと言ったような、そんなたわいのないものが、綺麗に飾られているのです。

えーっと、そうですね、なんでその場所が変かと言うと、うまく説明できないのですが、実用的ではないのですよ。なぜそこにそんな中途半端な正方形の空間があるのか。さっぱりわからないのです。普通、家にこんな場所を作りますか? と言いたくなるような場所なのです。

あ、ところで私の名前は封子と言います。これまた変な名前ですよね。

「封」って、封じるとか、封じ込めるって意味ですよね。

なんでそんな名前にしたのかな、と普通の子供なら自分の名前の由来を親に尋ねたりするんでしょうけど、私はなんとなーーーく聞きたくない気がして聞いたことがないのです。

まあそれはさておき、うちはおばあちゃん、お母さん、私の三人家族でした。

おじいちゃんは死にました。

お父さんはある日突然出て行きました。

なのでずっと女三人で仲良く暮らしていました。

まあ過去形にするのには訳がある、と言いますか、おばあちゃんがつい先日亡くなったからそんな言い方をするわけですが。

ええ、そうですね。おばあちゃんの話をしましょう。

いえいえ、急に話を変えるとかそんなんではないのです。

うちのおばあちゃん、この家の変な場所を、何と言いますか、妙に意識して暮らしてきたと言うか、うまく説明できないのですが、なんだか良く思ってなかったようなのです。

そうそう、うちのおばあちゃん、亡くなったのは七十四歳のときなんですが、七十二歳の時にボケまして。

今でいう痴呆症と言うやつです。

それまではすごく穏やかで優しい性格だったのですが、七十二歳の冬、ある日突然人が変わったようになってしまったのです。

けど……、けれどそうですね、それはある日突然なんかじゃなかった気がします。

なぜかと言うと、ボケが始まる数日前、夕食を食べてしばらくしてから、ふらりと私の部屋に来て挨拶をしたんです。

「封子、長い間お世話になったねえ。ずっと一緒に暮らせてとても楽しかったよ」と言ったんです。

私は何を急に言い出すんだと思い、おばあちゃんはもしかしてどこかに出て行くつもりなのだろうかと思い、それを聞いたその日は眠れず一晩中起きていたんです。けれどおばあちゃんは、まったく出て行く様子などなく、あまりに気になっておばあちゃんの部屋を何度も覗いたのですが、おばあちゃんはちゃんとすやすや眠っていて、いつもと何も変わるところはありませんでした。

けれども……、そうなんです。その日を境に、おばあちゃんはボケてしまったのです。

まるで、今までのおばあちゃんはどこかに行ってしまったかのようでした。

私のこともお母さんのことも思い出せない様子で、なんだか起伏の激しい性格になってしまい、すごく落ち込んで何も話さず、部屋の隅でふさぎ込んでいる日があると思えば、なにかにつけてイライラとして、目を吊り上げて、口をへの字にして、家の中を歩き回っては文句を言っている日もありました。

それはまるで、さっきも言いましたが、本当に今までのおばあちゃんがどこかへ行ってしまったかのようでした。

そしてそんなおばあちゃんが、ある日言うんです。

「地蔵さんがいる……」と。

へ? って感じで「まあボケた人の言うことだから」とお母さんとそんなに気に留めずにいたんです。

けれどもおばあちゃんは、「地蔵さんがいる」と繰り返すんです。

で、ついに私は聞いちゃったんです。

「お地蔵さんって、どこいいるの?」って。

そしたらおばあちゃん、指さして言うんです。「そこだよ」って。

それがその、変な場所だったわけですよ。

「顔の白い地蔵さんがいる。いい地蔵じゃない。怖い怖い怖い……」って繰り返すんですね。

いい地蔵じゃない、って言うのがどういう意味か知りませんが、とにかく「怖い怖い怖い……」って繰り返すんです。

「いい地蔵じゃない。怖い怖い怖い……」って。

「で、どうして怖いのか?」って私また聞いちゃったわけですよ。

そしたらおばあちゃん、「地蔵が目をひん剥いて私を見る」って言うんですよ。

「目ん玉が飛び出てる。怖い怖い怖い……」って。


ちょっと話が前後してしまいますが。

ああ、私はどうも、人様に話をするのがへたくそのようで。

後になって、「ああ、これも話すつもりだったのに、話さずに先に進んでしまった」と言うことがよくあるのです。

なので我慢してくださいね。

話が少し戻ります。

まだおばあちゃんが私に挨拶をしにくる前の話です。

あ、いえ、この話はおばあちゃんはあまり関係ないのですが。

まあとにかく、その場所がですね、生きたものを置いておくと、駄目になってしまうんですよ。

そうですね。

私が小学生の頃です。

どうしてそんなものをもらってきたのか忘れましたが、どこかでマリーゴールドの植木をもらってきたことがあるのです。小さな植木鉢に入って、オレンジ色の綺麗な花を咲かせていました。

「太陽が好きだよ」と言われていたので、昼間は外に出していたのですが、私はその花がとても気に入っていて、どうしても夜の間も見ていたくて、家の中に入れていたのです。

そう、家の中の、あの変な場所に置いていたのです。

結論から言いますと、次の日の朝には枯れていました。

しおれているとかそう言うのじゃないんです。

まるでもう一週間以上も水をやっていなかったんじゃないかと思うほど、花はうなだれ、色を失い、葉っぱもみずみずしさの欠片もなく、言い方が悪いですがゴミのようになっていたんです。前の日の姿など、見る影もありません。

「そこは駄目だよ」と、おばあちゃんはひと言いいました。

なにが駄目なのか、どうして駄目なのかは何も言ってくれず、ただ「そこは駄目だよ」と言ってどこかに行くのです。

他にもありました。

これも私が小学生の頃の話なのですが、友達から「飼っているセキセイインコが子供を産んだからあげる!」と言われて、綺麗な綺麗な、それはそれは可愛い緑色のセキセイインコをもらってきたのです。「ちょうど鳥かごも使っていないのがあるから、これもあげますね」と友達のお母さんに言われ、小さな鳥かごももらいました。

私は喜んでそのセキセイインコを……、そうです。あの場所に置いたのです。あの変な場所に。

だって鳥かごを置くのにちょうどいい場所だったのです。

大きさも、高さも、そこに鳥かごを置いてみると、まるでこの場所は最初から鳥かごを置くために作られていたんじゃないかと思うほどに、ぴったりだったのです。

私は嬉しくて嬉しくて、そのセキセイインコにヒヨリちゃんと名前をつけ、ご飯とお風呂の時以外、ずっと廊下でヒヨリちゃんのことを眺めていました。

私が寝るまでは、元気にしていたのです。

私があんまりずっと見ているもんで、お母さんは「まだ慣れていないから、暗くしてあげようね」と言って鳥かごに藍色の風呂敷をかけました。

いまから考えると、ヒヨリちゃんの為とかではなく、たぶん私を寝かせたかったんだと思います。

とにかくお母さんは、ヒヨリちゃんの鳥かごに、藍色の風呂敷をかけました。

すると静かになりました。

とてもとても静かになりました。

私は眠っているものだと思いました。

けれど翌朝には死んでいたのです。

「だから言ったやろ、そこは駄目や」とおばあちゃんは言いました。


おばあちゃんが亡くなって、一週間ほどした日のことでした。

#伯祖母__はくそぼ__#が家に遊びに来たことがありました。おばあちゃんのお姉さんですね。

「葬式に来れんで悪かったねえ。私もちょうど体を壊して動けんかったんや」そんな話をしながら仏壇に線香をあげていました。

伯祖母の名前は加代と言いました。

おばあちゃんより三つ年上でした。

あ、そうそう、わたし、おばあちゃんの名前を言いましたっけ?

おばあちゃんの名前は千代と言います。

いつも「おばあちゃん、おばあちゃん」と呼んでいたので、おばあちゃんの名前を紹介するのを忘れていました。

とにかくですね、おばあちゃんの名前は千代。その三つ年上のお姉さんの名前が加代と言いました。

で、私の家を建てたのは、おばあちゃん達のお父さんに当たる人なんです。なので建てられてから百年近くもする古い古い家で、私の生まれるずっと前からあった家ですから、その加代おばあちゃんも子供のころは住んでいたわけです。

で、もしかしたら加代おばあちゃんならこの変な場所のことをなんか知っているかもしれない。と、私は軽い気持ちで聞いたのです。

そしたら「ああ、その場所な。私もよくは知らんのやけど、昔この家を建てる時、そこにはお地蔵さまがあったらしいよ。あんまり良い噂のあるお地蔵様ではなかったらしいけどな」と教えてくれたのです。

加代おばあさんは、「よくは知らんのやけど」と言ったのですけど、なんだか隠していることがあるような気がしました。

直観と言うやつですよ。

私は昔から直観が利くのです。

小学校のころも、クラスで飼っていたウサギが殺されるのを夢で見て、当てたことがあります。

殺したのは私ではないのに、どう言うわけか私はその時とても気味悪がられたわけです。

誰が殺したのか、結局わからずじまいでした。

夜の間に小屋の鍵が壊され、中にいたウサギが殺されていたのです。

気味の悪い事件でした。

私は……、私はなにも悪いことも気味悪いこともしていないのに、なぜかクラスの人たちは、私が犯人であるかのように、あるいは気味の悪い事件の「気味の悪い」部分だけを私に当てはめて考えるようになったのです。

そして私はずっと気味の悪い人間として過ごさなければなりませんでした。

あ、いえいえ、これは今の話とは関係ありませんね。

どうも私は駄目ですね、話がすぐに逸れてしまうのです。

それでいつも怒られました。

「お前は何を言っているのかさっぱりわからん!」と。

「お前は何を言っているのかさっぱりわからん!」私の頭にこの言葉がまるでいつまでも落ちてこない雪の欠片のように冷たく宙に浮いて消えないのですが、これがいったい誰に言われた言葉なのかわからないのです。男の人の声なのですが、いったい誰に言われたのかわからないのです。わからないのに覚えているのです、その言葉と、その声を。

とにかくですね、また話が逸れてしまいましたが……。

ああ、私はいったい、どこまで話しましたか。

えっと、ああ、そうですね、加代おばあちゃんですね。

加代おばあちゃんにもう一度聞きました。

「あのお地蔵さまは、なんで村の人たちから嫌われとったん?」と。

「はあ? あんたいま何て言った!?」と加代おばあちゃんに言われ、私は「あっ!?」と思ったのですが、もう遅かったのです。

「なんであんたいま、村の人たちから嫌われていると思ったんや!?」

それはただの直観だったのです。

ただなんとなく、その話に出てくるお地蔵さんは、村の人たちを怒らせ、嫌われていると直感したのです。

そこに理由なんぞないのですよ。

直観なのですから。

それでですね、加代おばあちゃんは話し出したのです。お地蔵様の話を……。

「あの地蔵は、分かれ道の真ん中に置かれとったんや。山に向かってなだらかな二つの道があった。右と左にそれぞれ同じくらいの大きさの村があってな、そこに向かう道の分かれ道に置かれとったんや」そう言って話し始めました。「街では病気が流行っとったし。外国から来た病気や。原因も、治療法もわからんかった、正体のわからん危険な風邪やった」

「何が危険なん?」と私は聞きました。

「すぐに肺炎になってまうんよ。すぐに死人になってまう。そんな風邪やった」

「死んでまうの?」

「ああ、そうや。風邪みたいに簡単にうつって、鉄砲のたまに当たるくらい簡単に死んでまう」

「せやけどどうしてそれがお地蔵さまが嫌われてしまうことになるん?」私は聞きました。

「異人さんが来はったんや」

「異人さん?」

「気味の悪い異人さんやった。髪が真っ黒で、眼はビー玉みたいに透き通った緑色やった。黒い服を着て、先のとがった黒い革靴を履いて、やせ細って青白い顔をしとった」と、まるで加代おばあちゃんはその異人さんを見て来たかのような感じで話し出しました。「まるで服の中には何もないみたいに痩せていたんや。その異人さんが、右の村に行ったんや。それでそこから病気が始まった。村人はみんな風邪になってしもた。街で流行っていた風邪や。子供も老人も、五十人ほどいた村人全員が風邪になった。そして全員死んでしもうたんや」

「嘘や……」

「ほんまや」

「異人さんはどうなったん?」

「わからん」

「わからん?」

「ああ、消えてしもうた」

「消えてしもうた?」

「そうや。誰も帰っていったんを見いひんかった。村に死んだ体を見つけたんもおらん。いったい何をしに村に行ったんか、村で誰に会ったんか、村のどこに行ったんか、村からどこに行ったんか、全員死んでしもうたから、誰にも聞くことはできんかった」

「それでどうなったん?」

「左の村の男が、たまたま気味の悪い異人が右の村に行くのを見かけよって。その噂は瞬く間に左の村に伝わり、誰も右の村には近寄らんようになったんやけど、親戚が右の村に住んでいるもんがおってな、なんとも心配になって見に行きよったんや。そしたら右の村の人たちが全員死んでしもとるんを見つけた。男は恐ろしくなって自分の村に帰るとそのことを伝えよった」

「それで?」

「地蔵のせいにしよったんや」

「なんで?」

「地蔵はな、守り神なんや。その土地の人たちを疫病から守ったり、分かれ道に置かれた地蔵はそこを通る人の無事を願って置かれるもんなんや」

「せやけど別に、そのお地蔵さまが村人を病気にしたわけやないやろ」

「まあそうなんやけどねえ。ほら、昔の人たちやし、都会から離れた山の中の人たちやったから、そう言うのを信じよったんさ。地蔵が気味の悪い異人を通したことで、村を守ることができんかった。次はこっちに来る、次はこっちに来る、次はこっちに来るぞ、と噂が広まったんや」

「異人さんが?」

「そうや。次は左の村に来るに決まっとるて考えた。左の村の全員も、病気にかかって死んでまうと考えた。地蔵が通してしまう。次は地蔵が気味の悪い異人をこっちの村に通してしまう、ってな。次はこっちだ。次はこっちだ。次はこっちに来る。次はこっちだ。次はこっちだ。次はこっちだ。異人が、白い顔した異人がこっちに来るぞ。こっちに来るぞ。みんな風邪になってまう、全員死んでまう。気味の悪い異人は次に左を選ぶに決まっとる。右にはもう誰もおらん。次はこっちや、次はこっちや、次はこっちやと、噂が広まった」

「それでどうしたん?」

「地蔵をな、異人そっくりに顔を白く塗って、目をくりぬいたんや」

「なんで?」

「村に来たらこうなるぞと伝えるためやった。ここから先に進んだら、顔の白い奴は気味の悪い目をくりぬくぞと言う警告やった」

「それで、もう異人さんは現れんかった?」

「わからん」

「わからん?」

「ああ、そうや。左の村の者も、全員が死んじでしもうたからね」

「嘘や……」

「死んでしもうたんや……」

「加代おばあちゃんは、そのお地蔵さんを見たことがあるん?」私のその質問は、何の気なしに出たものでした。

普通に考えれば、そんなお地蔵さんも異人さんも、単なるうわさ話にすぎないですよね、ほら、よくあるじゃないですか、子供を戒めるために大人たちがでっち上げた怖い話が。例えばそうですね、口裂け女みたいな。私はそう言う類の話だと考えていたので、当然加代おばあちゃんの答えは、「そんなの見たことないよ」と言うものだと想像していたのですよ。

けれど、けれどですね、加代おばあちゃんは、なぜか顔を白くして、黙り込んでしまうのですよ。

「どうしたん? 加代おばあちゃん?」と私が聞くと、加代おばあちゃんは「なんでもないよ」と言うのです。

「嘘や。何考えてるん? ちゃんと話して。もしかして、そのお地蔵さん、見たことあるん?」

加代おばあちゃんは、何も答えません。

「なあ、教えてよ。あるの?」

加代おばあちゃんは、何も答えません。

「なあ、なあってば!」

「ああ、まあね……」

「嘘、どこで?」

「今でもあるよ、同じ場所に……」

「同じ場所?」

「いや、なんでもない。もう忘れ」加代おばあちゃんはそう言うと、「さ、このお話はここでおしまいおしまい」とでも言うように、「まあそもそも異人さんなんてものが本当にいたかどうかすらわからんのやけどね」と口調を明るくして言うのでした。


異人さんなんてものが本当にいたかどうかすらわからん。


異人さんなんてものが本当にいたかどうかすらわからん。


異人さんなんてものが本当にいたかどうかすらわからん。


私は「嘘や」と思いましたよ。

異人さんはいましたよ、絶対に。


私は加代おばあちゃんが帰った後、どうしても気になりました。

あの変な場所が。

私は加代おばあちゃんが帰った日の夜、お母さんも寝てしまった後、一人で電気を消した廊下に座りました。

変な場所でしょ。

変な場所なんですよ。

変な場所。

変な場所は、胸の高さくらいの台になっていると言いましたよね。

言いましたよね、たしか?

これって結局、台なんかではなくて、入れ物なんではないですか?


異人さんはほんとにいたんですよ。

わかりますよ、そんなの。

だって、私の眼がそうなんですから。

日本人ですよ、私は。

異人さんなんかじゃありませんよ。

どうしてみんな私のことを気味悪いって言うんですか!

ウサギを殺したんは私ではないですよ!

お母さんだって、おばあちゃんだって、みんな日本人じゃないですか!

気味悪いってなんですか!

なんなんですか!!!

くっそ!

私のことが気味悪いってなんなんですか!

なんでそんなことを言うんですか!

いい加減にしなさいよ!

あなたもそう思うのですか?

あなたも私が気味悪いんですか?

気味が悪いって!

私の眼を見てそう思うのですか!

「お前の眼、ビー玉みたいやんけ! 気味悪い!」

「目開けんなや!」

「顔日本人やのに、なんで眼だけビー玉やねん! 気味悪い!」

気味悪い、気味悪い、気味悪い!

この中に! この中に! この中に!

私は変な場所にある台を叩き続けました。

暗い廊下で、暗い廊下で、暗い廊下で。

この中に! この中に! この中に!

見える、見える、見える!

眼をひん剥いた地蔵が!

眼をひん剥いた地蔵がいる!

この中に! この中に! この中に!




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