剣聖試験:届かぬ思い
試験が開始してから七日目。僕は散歩がてら川沿いを歩いていると、川のほとりに生えた大樹の傍で見知った姉弟を見つけた。
「こんにちは、二人が一緒にいるなんて珍しいね」
「ア、アラタ。こんにちは」
「……元気そうだね」
姉のセブンと弟のサイス。姉はⅦのエンブレムを、弟はⅥのエンブレムをそれぞれ手首にぶら下げている。
「よ、良かったら、一緒にご飯食べない? 多めにつくったから」
セブンはたどたどしく喋りながらバスケットの中身を見せてくれた。バスケットの中は、色とりどりのサンドイッチがいっぱい敷き詰められていた。
「……たまには、こういうのもいいでしょ」
僕たちは川の傍にあるベンチに腰を掛け、少し早めの昼食をとることにした。
「昔から気になっていたことがあって」
そう切り出すと、姉弟は不思議そうに首を傾げた。
「二人とも片眼を前髪で隠しているのは何か理由があるの」
「こ、これは、ずっと前から、しているから。こうじゃないと落ち着かなくて。へ、変、だった?」
セブンは俯くと、不安そうに僕を見ていた。
「ううん、似合っているよ」
「よ、良かった。えへ、へへ」
顔を赤らめながら、セブンは笑った。
「……姉さん、そんな理由だったの」
「そ、そんなって言い方、酷くない。じゃあ、サイスはなんで、そんな髪型しているの」
「……かっこいいから?」
「な、なにそれ。全然カッコよくなんてない」
「……姉さんには関係ないでしょ」
和気あいあいとしていた空気が一転して、重々しくなる。こうなってしまうと、姉弟のどちらかが立ち去るのがいつもの流れだった。
「あれ、みんなで何しているの?」
底抜けに明るい声が聞こえ、振り返った先にはケイトの姿があった。彼女はⅣのエンブレムをチョーカーのように首に巻き付けていた。
「みんなでご飯? いいな~アタシも仲間にいれてもらっていい?」
「……いいよ」
彼女のおかげで居心地の悪い空気は、あっという間に一掃された。
「お、アラタ君、元気そうだね。試験の方は順調なの」
「問題ないよ」
「そんなこと言っているけど、寂しかったりしないの。今度みんなで遊びに行こうかな~。アリスも誘って」
わざわざアリスの名前を出す理由は何となく察したが、あえて口を挟まないことにした。それは何故か。ケイトも幽霊の彼女と同じように、その手の話が好きでたまらないのだ。
「……ケイトは知らないの?」
「え、何が」
ケイトは、サンドイッチを頬張りながらサイスに顔を寄せた。おそらく、サイスの声が小さくて聞き取りにくかったせいだろうが、不意に接近されたサイスは慌てて顔を反らしていた。
「……ゆ、幽霊がでるって話。ユウから聞かなかった?」
「聞いたよ。でも一度くらい会ってみたいかなーって」
満面の笑みを浮かべていたケイトを、じっと見ていたセブンが口を開いた。
「わ、わたし達は遠慮するから、ケイト一人で行って来たらどうかな」
セブンの一言にケイトは笑顔のまま固まった。
「こ、怖いなら無茶言わなければいいのに」
「ちょっ! 怖くなんかないし。剣聖が霊を怖がるわけないじゃん」
「……本当に行くなら、僕も一緒に行くよ」
「サイス君は、本当にいい子だよね。アタシが困っていることがあると直ぐに助けてくれるもん。お願いだから、こんな意地悪な二人にならないでね。」
ケイトはサイスの肩を抱き、僕とセブンに非難の目を向けていた。彼女は、サイスが親切心だけで自分の事を助けてくれると思っているようだ。そんな彼女の為に、身を尽くすサイスの事を考えると多少不憫に感じてしまう。僕の考えと通じるものがあったのか、セブンは僕に視線を送ると、黙って頷いた。
「ケイトは少し鈍いところがあるよね」
「え? 何、いきなりそんな事言われると傷つくよ」
顔を膨らませて抗議するケイトにセブンが畳みかける。
「じ、自分のことばかりに夢中になっているから、他人に対して疎かになっていない?」
「意味わからないしー」
抗議するケイトの横でサイスは顔を伏せ、顔を赤らめていた。
「……みんな知っているのかな」
「大半は」
「お、お姉ちゃんはずっと前から気が付いていましたけどね」
さらに赤面するサイスと、戸惑うケイトの姿が面白くて、僕とセブンは笑い続けた。
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その晩に幽霊の彼女を誘い、昼間に訪れた川辺のベンチへとやってきた。清流の音と虫の鳴き声が心地よく響いている。僕にとっては見慣れた景色だが、彼女は目を輝かせながら辺りを見回し、川の水にそっと触れていた。
「結構、冷たいね」
幽霊も冷たいとか感じるのかと思いながら、楽しそうにはしゃぐ彼女をぼんやりと見ていた。
「どうかしたの?」
「いや、楽しんでもらえているみたいで良かった」
「楽しいよ。とっても」
川の水をもう一度掬って見せた彼女。掬った水は月の灯りを浴びて、きらきらと輝きながら手の隙間から零れ落ちていった
「君と出会うまで、こんなにのんびりとした時間を過ごしたことなかったな」
「死ぬ前の記憶は残っているの?」
僕の言葉に彼女は呆気に取られていた。しばらく立ちすくんでいたかと思えば、今度はいきなり笑い出した。
「そんな事、普通聞くかな」
ひとしきり笑った彼女は目を指で拭っていた。
「覚えているよ。でも今はあんまり話したくないかな」
「そっか、じゃいいよ」
「気にならないの?」
「なるけど、人に言いたくないこと位、誰にでもあると思う」
彼女は僕の横に座った。
「君にもあるのかな」
「あるよ。ありすぎて覚えていられない位ある」
「その記憶って、お酒飲んだら思い出すかな」
出かける前に何やらごそごそと準備をしていた彼女が差し出したのはお酒。予想外のことに、思わず顔がにやけてしまった。
「口は軽くなるかもね」
酒盛りの準備をする僕の後ろで。
「君になら、いつか話してもいいかな」
彼女は消え入りそうな声で、そう呟いていた。
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