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剣聖試験:二つ名

「そこまでだ、少年少女達」

「お姉ちゃん」

 13のエンブレムを持つ剣聖が姿を現すと、双子に非難の声を浴びせていた少年たちが彼女を目掛け駆け寄っていく。年の差は離れているが、身長だけで見れば周りの少年少女と大して変わりはない。だが駆け寄った誰しもが憧れの目で彼女を見ていた。


「キングだ」

「え?」


 戸惑う少年達を無視して、キングは自信に満ちた顔で宣言した。


「二つ名である、キングと呼んでもらおうか」

「え、本気?そんな二つ名で良いの」

「二つ名で言ったら私達、テンとジャックだよ」

「いいじゃないか。剣聖の証だ。堂々と名乗ればいい」

「えーいやだー。かわいくないー」

「絶対、嫌です」


 今度は双子が抗議し始めた。彼女たちにとって剣聖の証である二つ名はお気に召さなかったようだ。


「なら、二人は何て名乗るつもりだ」

「ルリ」

「アサギ」

「それ、本名だよね」

「まったく、仕方のない子供たちだな……。おっと、少し話が反れてしまったね」


 キングはわざとらしく咳ばらいをすると、少年たちを見渡した。


「アラタは強い。でも彼は、剣を振るう姿をあまり人には見せないのさ」


 キングの言葉に、囃し立てていた少年少女たちの声が止んだ。


「えーでも……」

「アラタが強いって、信じられない」

「剣聖の中じゃ、最下位だったのにね」

「そこまで言うのなら相手になろうか」


 僕は腕をまくり、文句ばかりを口にしていた身近にいた少年から木刀を奪う。


「おし、全員かかっておいで。特に呼び捨てで呼んでくれた少年には、手厚く指導してあげよう」

「まったく君は、相変わらず面白いな、まあ待ちたまえよ」


 待てといいながらも、キングは笑いをかみ殺すのに必死のようだ。


「彼が得意とする戦闘スタイルは、一撃必殺。そして放たれる一撃は、とても強力でね……そうだな。あの程度であれば跡形もなく吹っ飛ばすのは余裕なはずだ」


 キングが指を差した先にあったのは、訓練で使用する木人形だった。


「跡形もなく?」

「嘘だー。そんな魔法みたいなこと出来るわけないよ」

「まあ見ていてご覧よ。疑う君たちの為に、私が手本を見せてあげよう」


 キングは木人形の前に立ち、拳を握りしめた。

 目を閉じ、呼吸を整える。今までの雰囲気とは違う彼女の姿を、少年たちは息を飲むように見守っていた。目を見開き、気合の声と共に放たれた拳。すさまじい衝撃音が鳴り響き、木人形を跡形もなく粉砕していた。


「まあ、こんなものかな」


 上半身が粉々に吹き飛んだ木人形。見守っていた少年達と双子の口から感嘆の声が漏れていた。


「すごいや、お姉ちゃん」

「お姉ちゃんじゃない。キングだ」

「す、すごいやキング」

「こんな事が出来るならもっと見せてくれてもいいのに」

「そうだろう、そうだろう。少年たちの気持ち。私にはよくわかる」


 キングは少年たちの声に何度も頷いていた。


「だが、それは出来ないのさ。なぜなら……」

「キング! 君はまたやったのか!」

「やぁデューク。またやってしまったようだ」


 音を聞きつけ姿をみせたのは、Ⅱのエンブレムを持つデュークだった。彼はキングの首根っこを掴み、険しい顔でキングを睨んでいた。


「デュークじゃない。デュースだ。僕は二つ名を名乗るといったばかりだろう」

「細かい事は言いっこなしだよ。それに君の本名と二つ名は、とてもよく似ている。だからこそ本名を名乗るべきだと、私は思うがね」

「その訳の分からない理屈に僕は付き合うつもりはないぞ。アラタ。君も見ていたのなら止めてくれないか。彼女が壊した人形の数はこれで十体目だぞ」

「正しくは十二体目だ」

「自慢げに言うな。壊した分はつくらないといけないというのに面倒なことを……」

「おかげで人形作りが大分上達したよ」

「褒められることか。まったく君を手伝う僕の身にもなってくれ」

「お世話になった里の為、記念すべき十三体目を……。ちょっと、まってくれ十三といえば、私のナンバーと同じ数じゃないか。こんな偶然もあるものだね」


 キングは首根っこを掴まれているにも関わらず、嬉々とした表情でデュークに話しかける。


「僕に言わせてもらえれば、その数にする為にわざと壊したのかと疑いたくなるね」

「そんなことはないさ、木人形の事が気になるのなら、このまま工房へ行こうじゃないか。ルリ、アサギ、アラタ、そして少年達よ。互いに精進していこうじゃないか」


 キングはデュークに引き摺られるように工房の中へと消えていった。


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「君の友達は面白い人が多いのね」

「そうかな? 自分ではよくわからないよ」

「君も、十分面白いけどね」


 そんなことを言いながら、幽霊である彼女は、空いたお猪口に酒を注いだ。最近では、酒を飲みかわしながら里で起きたことを彼女に話すのが日課になっていた。自分にとっては何気のない日常のつもりだが、彼女にとっては面白おかしく聞こえるらしい。

 キングより半ば強引に押しつけられた木人形の部品を作っている僕を、彼女は楽しそうに見守っていた。

ご覧いただきありがとうございました。

今日は21時頃に再び投稿しようかと考えてます。

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面白い、続きが気になると思った方は

よろしくお願いいたします!

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