凱旋、おっぱい王子
王都の人々が草木に変えられた、前代未聞の事件。
世界に破滅を齎す魔王の力によるものであった。
しかし、魔王は勇者クレイによって倒された。
人々は元に戻り、再び平和が訪れた。
そして勇者クレイこそ、実はこの国の王子。
世界を救った彼の凱旋を民衆は熱狂して迎え入れた。
……というのが建前、真実ではない事を知る者は少ない。
勇者である王子クレイは、一度たりと民衆の前に姿を現していない。
魔王との壮絶な死闘によって半身不随となってしまった、はたまた魔王が最後に呪いを掛けたとも、様々な噂が噂を呼んでいる。
その真の理由こそ、おっぱいとしか喋れないからであるのだが……。
そのクレイ王子の妹に当たるイセルナ姫が謎の失踪。
勇者に協力していた大聖堂の聖女ナリア、王家に仕えるダークエルフの魔法戦士シグネまでも、同様に行方不明となってしまっている……。
当事者であるクレイ王子からは事情を聞けず、彼と共にやって来たティアなる少女も真相を話さない。
真実を話せば、魔王が健在であると明かしてしまうからだ。
絶対にそれだけは言わない様に、ナリアとシグネから厳重に忠告されていたのが理由である。
行方不明になった者達は、おそらく魔王との激しい戦いの果てに尊い犠牲となった……というところで落ち着いた。
育ての親であるサラの両親とも再会を果たしたクレイ。
サラまでもが行方不明となり、妃候補である一人娘の失踪に二人は酷く落ち込んでしまう。
だが、真実を明かす事は出来ない。
そして、月日は流れ……。
クレイと共にやって来たティアは妃として迎え入れられようとしたが、彼女の生い立ちや以前の職業を調査された挙句、この結婚話も有耶無耶となってしまっていた。
結局のところティアは、王子の親しい友人という微妙なポジションで王城で暮らしている。
そんなティアが追い討ちを掛けるかの如く……。
「クー君……アタシね、やっぱり抜け駆けはしない!」
よりによって、旅立った皆が帰還するまでは操を立てる宣言をしてしまう始末。
こうして、おっぱい勇者……いや、おっぱい王子は、全てのおっぱいからお預けをくらった形となってしまうのだった。
王子である以上、様々な縁談話も持ち込まれたりもしたが、クレイが激しく拒否したためにこちらも進展はない。
その理由こそ、相手が悪魔ゼパルによって抹殺されてしまうからだ……。
「おっぱい……」(おかしいな……)
王城内に与えられた自室に籠り、塞ぎ込んでいるクレイは思わず呟いていた。
「おっぱい……おっぱい……」(みんなが俺の事……好きな筈なのに……)
「おっぱい……おっぱい……?」(側に居るティアまで……どうして……?)
堂々と欲望を晒した罰なのだろうか?
それとも……魔王の討伐を拒否した勇者に対して、天界の女神が与えた試練なのだろうか?
いったいどうして、こうなったのだろうか……?
「また部屋に籠ってるの、クー君〜! たまには一緒に外に出ようよぉ?」
ノックもせずに突然入って来るティア。
煌びやかなドレスを身に纏い、貴族の令嬢と変わらぬ美しい姿。
今の彼女を見て、誰も元娼婦だとは想像も出来ないであろう。
「おっぱい、おっぱい……」(おっぱい、触りたい……)
「ダメでーす、お触り禁止でーす」
「おっぱい!?」(何で解るんだよ!?)
相変わらず、何故だかティアだけは意思疎通が可能な不思議な存在。
ある意味、相性が良いのかもしれない。
そう言えば、呪いが発症した当初からそうだったな……。
「おっぱい……」(早く帰って来ないかな……)
「そうだね、みんな早く帰って来ないかなぁ……」
窓から外を眺める俺の言葉を理解したかの如く、ティアはそう囁いてくれたのだった。
ざまぁ……?




