決意の、旅立ち
俺はガックリと項垂れていた。
そんな中、サラ姉がルーネに声を掛ける。
「もう現実の世界に戻してくれて良いわ……牛チチ魔王」
「そう? それじゃあ、仰せのままに……」
「なっ! ま、待ってくれルーネッ……!」
止めようとした俺の声も虚しく、視界がブラックアウトする……!
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「…………おっ……ぱ……い?」
次の瞬間。
俺の目の前を横切ったのは赤黒い甲冑……悪魔ゼパル!
ハッとする間も無く、悪魔はサラ姉へと凄まじい速さで向かっていた……。
「おっぱいッ……!?」
恐るべき速度でゼパルの剣がサラ姉を薙ぎ払う!
しかし、サラ姉は見事に身を躱す……!
その動体視力と身のこなし、まさに最強のアサシンだった。
わずかな一瞬で身を翻し、後方に距離を取る。
「残念だけど、今の私では悪魔を倒せない……」
落ちていた愛用のナイフを拾いながら、悪魔ゼパルと対峙するサラ姉。
間髪を入れず、再びゼパルが猛進して行く!
「だけど……攻撃パターン、射程……」
見切ったかの様に、ゼパルの突きを回避。
だが、瞬時にゼパルの腕が巨大化してサラ姉に迫る!
「一度見ているから……避けられる……!」
ゼパルのフェイント攻撃さえも難無く避けている……!
「す、凄い……! サラさん……まさか、ここまで……!」
横に居るシグネが驚嘆する程、サラ姉の動きは尋常ではなかった。
シグネがまったく歯が立たなかった悪魔ゼパル。
その凄まじき攻撃を回避出来る者など、世界広しと言えどサラ姉しか居ないのではないかと思えてしまう。
「止めてよ、ゼパルさんっ! サラは敵じゃないよ!」
サラの背後に立っているティアが必死に叫ぶも、ゼパルの攻撃は止まらない。
それでもサラ姉は尽くゼパルの斬撃を見切り、躱し続けている……!
「おっぱいッ! おっぱい、おっぱいッ!」
当たり前だが、現実では俺の呪いも継続していた。
何を口にしても、発音するのは同じ単語。
「あの戦いを止めれば良いのですよね、クレイ様?」
「おっぱいッ!?」
まるで意思が伝わったかの様に、ナリアが俺に微笑み掛ける。
「おっぱい! おっぱいッ!」
「ウフフッ、この聖女ナリアにお任せ下さいませ……」
サラ姉とゼパルに向けて歩み始めるナリア。
そして、手を翳すと……!
「おっ……ぱい……!?」
ゼパルの動きが停止する。
ナリアはいったい何をしたのか?
「光神の拘束……全知全能の神の力です……が、長くは持ちません。 私の精神力が尽きる前に、此処からお逃げになって下さるかしら……サラさん?」
顔を歪めながら、そう語るナリア。
いつもの余裕ある彼女とは違い、苦痛が滲み出している表情。
それ程までに悪魔ゼパルは強大な力を持っているのだろう。
「判った……今はそうさせて貰うわ。 だけど、次に会った時はアンタも殺すわよ、私……」
「フフッ……その時は、返り討ちにして差し上げますから」
ナリアと言葉を交わすと、サラ姉は真っ直ぐにマノンとイセルナに向かって行く。
「マノン、イセルナ……アンタ達も一緒に来なさい」
サラ姉の意外な言葉に、全員が目を丸くする。
果たして、どういう事なのだろうか?
「サ、サラお姉ちゃん……?」
「アンタ達二人は、気の迷いって事で見逃してあげる。 その代わり、私の修行に同行しなさい。 ついでに、マノンの魔力を元に戻す術も捜して、クレイの呪いを解く」
唖然とするマノン。
「わ、私も……なのですか……?」
恐る恐る、イセルナがサラに訊くも……。
「アンタを残したら倫理的に駄目でしょ! 旅の間、将来の姉がみっちり教育してあげる」
「でも、城に戻らないと……」
「だからッ! 近親相姦なんて許さないって言ってんの!」
うわ、姫君の頭を叩いたよ、この人……。
「ひっ!?」
しかし、姫君まで一緒に連れて行くなんて……いくら何でも、そこまでする?
だが、サラ姉の凄みに誰一人として何も言わない。
「じゃ、暫くの間……待っててね、クレイ」
最後に俺の側に来ると、そう囁きながら頬にキスをしたサラ姉。
そして、マノンとイセルナの腕を引っ張りながら歩み出した。
その姿が見えなくなるまで、俺は何も出来ずに見ているだけであった……。
「おっぱい……」
『サラ姉……』と呟いた筈だったが、やはり俺の言葉は変わらない。
こうして、三人が立ち去ってしまった。
程なくしてゼパルの姿も消え、聖なる力で拘束していたナリアが大きく息を漏らす。
かなり精神力を消耗している様だ。
そんな中で、現実に戻ってから沈黙を続けているルーネの嗤い。
俺はまったく気付く事もなく……。




