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おっぱいとしか喋れなくなった勇者に世界は救えるのか?  作者: らいとふっと


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68/89

勇者なら、仲間全員を抹殺して下さい!

ここから序盤以来のクレイ視点です。

 いったい、何故こんな状況になってしまったのか……?

 マノンなる少女によって告げられた、予想だに出来ない驚愕の内容。


 仲間である誰かに、魔王が憑依している……!?



 サラ姉とルーネは危険な状態。

 一刻も早く聖女ナリアと合流し、彼女の治癒が必要だ。



「二人はもう虫の息です。 可哀想ですが、このまま貴方が殺してあげるのが勇者としての役目なんです……」


 冷酷にも、そう告げるマノン。


 命が失われそうな二人を、俺が……?

 それが、勇者の役目……!?




 サラ姉……。

 幼い頃から一緒に育った義姉である幼馴染、そして一度は将来も誓い合った仲。

 散々と暴走はしたものの、怪しい修行で凄まじい強さのアサシンとなった。


 ルーネ……。

 聖女ナリアの護衛である見習い騎士。

 俺に好意を寄せてくれている女の子。

 ナリアと一緒に変になってしまったけれど、俺の力になろうと努力していた頑張り屋の女の子。


 正直、彼女達の行動には理解に苦しんだのは事実だ。


 かと言って、この二人をみすみす見殺しにして良いのか……?



「貴方はこの世界を救う事が出来る唯一無二の存在。 勇者として選ばれた以上、クレイ様は情に流されてはならないのです……」


 マノンの言う事が本当だとすれば、それはあまりにも残酷な運命……。



 覚悟を決められない俺が立ち尽くす中、ティアとイセルナは重傷の二人に寄り添っていた。


 サラ姉の口から血の泡が吹き出される中、必死に名前を呼び掛けるイセルナ。

 血塗れのルーネの傷口にハンカチを押し当て、止血をするティア。


「サラ様っ! しっかり、しっかりして下さい!」


「血が、血が止まらないよぉ! ルーネちゃんっ!」


 悲痛な二人の叫びが繰り返されている。

 だがマノンは気にも留めず、ただ俺を見つめていた……。



「おっぱいッ! おっぱい、おっぱい……おっぱいッ!」

(出来る訳がないだろッ! ふざけんじゃねぇ、この二人を……見殺しになんかしねぇぞ!)


 マノンに踵を返すと、俺は彼女達の元へと向かっていた。


 ポーチの中から薬草を取り出しながら、満身創痍のサラ姉の傍らに腰を下ろす。



 勿論、薬草程度でどうこう出来る様な状態ではないのは解りきっている。

 それでも、ただ黙って見ている事は出来なかった。


 サラ姉が呼吸をする度、ゴボゴボと口から吐き出される流血。

 義姉の顔は鮮血に染まり、視点は虚ろになって定まっていない。


「おっぱい……」

(サラ姉……)


 イセルナが俺の手から薬草を奪うかの様にもぎ取ると、サラ姉の腹部に押し当てる。


「サラ様は強く、そして優しい方です。 野盗に襲われた見ず知らずの私を助けて下さいました。 絶対に貴女を死なせたりしません……!」


 涙を流しながら、呼び掛け続けるイセルナ。


 だが俺も、イセルナも解っている。

 もうサラ姉は……助からない。

 あと数分で息が絶える状態なのは誰が見ても明らかだった。


 いつの間にか、俺もイセルナ同様に涙を流していた。

 それでも、歯を食い縛りながら重い腰を上げる。



 そして、粉砕された馬車……ルーネの元へ向かう。



「ルーネちゃんっ、起きてよぉっ! お願い、目を覚ましてっ!」


 こちらでも、ティアの悲痛な叫びが繰り返されていた。


 ルーネの身体中には木片が突き刺さり、サラ姉と同様に血塗れになっていた。

 下手に木片を引き抜くのは逆に危険かもしれない。

 腹部と太腿部に、彼女の腕よりも太い木片が刺さったまま、ルーネは昏睡していた。


 身体中からの出血が酷く、このままでは失血死してしまうだろう。

 残りの薬草をティアに渡すが、もはや焼け石に水の状況。



『私、勇者様のお役に立ちたいんです! だから、もっともっと強くなります!』


 数日前、俺にそう告げたルーネ。

 真面目で頑張り屋な聖騎士見習いの少女。


 そんなルーネが、どうしてこんな目に遭わなければならない?


 もう、涙が止まらない。



「おっぱいッ! おっ……ぱい、おっぱいッ!」

(ナリアッ! 早く……早く、戻って来てくれッ!)


 魔を討つ卓越した力は有していても、彼女達を治癒する力は勇者には無い。


 今の俺には何も出来ない。

 無力な存在だった。

 ただ、聖女の帰還を願うだけなのだから。



 そんな俺に対して、再びマノンが怒りの形相で声を荒げる。


「クレイ様ッ! 勇者なら……仲間を抹殺して下さいッ! 彼女達を殺さなければ、世界は滅びますよッ?」




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




(これは……いったい、どういう事なの……? サラさんとルーネさんが倒されている!? それに、どうしてティアさんが此処に?)


 マノンの冷酷な叫び声が響く中、密かに帰還していたシグネは木陰に身を隠した。

 精霊魔法を駆使し、完全に気配を消している。


(何にせよ……これで手間が省けたというもの。 ティアさんにも死んで貰わないとね……。 留めは刺さずにクレイの聖剣で息の根を止めさせれば、魔王は二度と復活しない。 フフッ、簡単な事だわ……)


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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつも勇者としては大概だったはずだが、ヒドイン達のヒドイン力が高過ぎてもはや真っ当な奴にしか見えないくなってるなw
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