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おっぱいとしか喋れなくなった勇者に世界は救えるのか?  作者: らいとふっと


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シグネ、考察する

「この役立たずっ! こんなヘボ聖女に一縷(いちる)の望みを託した私達が馬鹿だったわ!」


「サ、サラさん……? 確かにナリア様は呪いも解けないですし、ナメクジみたいにフニャフニャして毎晩こっそりと自慰に耽る残念な方ですけど、何もそこまで言わなくても……」


 サラの悪態に便乗してルーネも毒を吐く。

 ここぞとばかりに、主人であるナリアに対する酷い毒を。



「ルーネ、アンタも調子乗ってんじゃないわよっ! 言っとくけど、今度クレイに変な事したら……ただじゃおかないわよ?」


「ひ、ひゃいっ!」


 ドスの利いた声。

 釘を刺すサラの迫力に呑まれるルーネだったが、内心は太々(ふてぶて)しい考えを巡らせていた。


(それなら、私から言い寄らなければ良いって事? 私の豊かな胸を勇者様が選んでくれれば、サラさんだって負けを認めざるを得ないよね?)


 サラとナリアでは太刀打ち出来ない自らの武器。

 それを認識してからのルーネは、ある意味では強くなったと言えるだろう。




 一方で、最初の自信に満ち溢れた態度から一転、しょんぼりと肩を落としているナリア。

 サラとルーネからのネチネチとした誹謗に、ワナワナと身体を震わせている。


 ナリアの解呪能力は世界トップレベルの筈である。

 だが、クレイを蝕む呪いはそれすらも超越していたのだ……。


(どうして私がこんな目に……! この聖女ナリアを侮蔑して良いのはクレイ様だけなのに……!)


 屈辱のあまり、泣きそうになってしまうのを堪えているナリア。




 聖女の情けない姿、此の期に及んで誹謗を口にするサラとルーネ。

 その醜さにイセルナは唖然とするだけだった。


(いったい何なのです? サラ様までもが変になって……この人達は全員が普通じゃないですわ……!?)


 この場に居る者の中で、クレイを除いて唯一まともな思考を持っているのはイセルナだけかもしれない。


 サラ、ナリア、ルーネ、そしてシグネ。

 それぞれが皆、自身の欲求の為だけに動いている。

 そこに渦巻くのは他人を想いやる気持ちなど皆無、傍若無人、自分勝手、自己中心的、快楽主義……。






 そんな彼女達の醜い言動を気にも留めず、シグネは黙り込んだままであった。


(ガナガ……現国王の弟であり、クレイの叔父に当たる人物。 そして、その娘のマノン……か……)


 十数年前に起こった、王位継承を巡っての争い。

 当時の出来事をシグネは思い返す……。


 当時の現国王は第一王子。

 一方、第二王子だったのがガナガ。


 ガナガは所謂(いわゆる)、学者肌の男であった。

 王族の身でありながら、魔法や呪術の研究に明け暮れていた変わった人物だと記憶している。


 家督争いの際には、宮廷魔術士達が(こぞ)って彼の側に付いた。

 第一王子側には王国の騎士団が付いた為、この争いは内戦同様となってしまったのである。


(サラさんは、マノンが魔王の配下だと聞かされた……。 つまり……その昔、国を追われたガナガが魔王に(くだ)った?)


 そしてガナガ自身は勇者となった甥、クレイによって倒されている。

 それと同時に、最初の呪いが発動した。


(やはり、呪いの触媒はガナガの命に違いない。 そして、聖女ナリアでさえ解呪出来ない強力な呪いを娘のマノンが一度は解除していた……?)


 そこまで考えを巡らせ、遂にシグネは結論に辿り着いた。



「皆んな、聞いて頂戴……。 クレイ殿下の呪いの正体、やっと解ったの……!」


 全員の視線が一斉にシグネへと集中する。



「あくまでも私の推察だけど、この呪いは……勇者の血を受け継ぐ者による力。 本来ならば魔を封じるべき力を捻じ曲げ、怪しげな呪いに昇華したもの。 呪いの主であるガナガはクレイ殿下の叔父、即ち勇者の血統を持っていた。 そして、その娘マノンにも解除する事も出来た。 聖女ナリアには出来なかった理由は、この呪いが勇者の力に由来するものだからと考えて間違いないわ……」


 シグネの独白に全員が言葉を失う。

 呪いが勇者の力に由来すると言われて、成る程、はいそうですか……とはならない。


 自らの完璧な推察に自信を持つシグネだったが、他の者には意味不明にしか思えなかった。

 勇者をおっぱいとしか喋れない様にした力が、元を辿れば同じく勇者に由来すると言われてもピンと来ないのは当然なのだから。



 そして、皆が知りたいのはそんな事ではない。



「で、シグネさん? クレイの呪いが勇者の力に由来するとして、どうやったら解除出来るのよ?」


 痺れを切らせて、シグネに問うたのはサラだった。


 それこそが全員が知りたい事である。



「方法は解らない、残念ながら……。 でも、勇者の血統を持つ者ならば解除は可能だと思えるわ。 つまり、国王陛下とイセルナ姫なら、方法さえ突き止めてしまえば……ね」


「えっ? わ、私が……ですか……?」


 そんな事をいきなり言われても、イセルナは混乱するだけである……。



「とにかく今は王都に向かいましょう。 国王陛下に報告すれば、きっと国を挙げて解呪方法を調査して頂ける筈よ。 だから……」


「ち、ちょっと! 皆さん……あ、あれを見て!」


 シグネの言葉を遮るルーネ。

 熱弁するシグネの背後、遥か彼方を指差して声を上げながら。



 そこからは、幾つもの黒煙が天に向かって舞い上がっている。

 此処から半日程で辿り着く、王都からである……。

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