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おっぱいとしか喋れなくなった勇者に世界は救えるのか?  作者: らいとふっと


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49/89

マノン、ヤバたん

 ブチ切れ状態のサラが鬼神と化していた、丁度その頃……。


「んもーーっ! ビッチちゃんってば遅いっ! トロくさいよぉっ!」


 眼下には、王都へ向かう街道を馬で征くティアの姿。

 今まで馬に乗った事もないティアには、並歩で進ませる事しか出来ない。

 腰を浮かせての速歩は至難の業。


 家業の手伝いで馬に乗っての配達や薬草採取を行っていたサラとは違う。

 元から運動神経の良いサラと、乗馬経験皆無な元娼婦のティアを比較するのは酷なのだが。



「このままだとビッチちゃん、間に合わないよ……。 こうなったら、瞬間転移魔法で直ぐにでも……」


 ノロノロと馬を進ませるティアを上空から監視しながら、マノンはそう呟く。

 堪らず、跨っている魔法の箒を地上へと向かわせようとした、その時。



「直ぐにどうするつもりなのか、俺にも教えて欲しいもんだ。なぁ、マノンよ……?」


 空中を浮遊するマノンの背後から、突然の声。

 しかも、透明化(インビジブル)の魔法で姿を隠しているにも関わらず。


 ハッと振り向くマノン。

 そこに居たのは灰色のマントを纏った一人の男。



「ダバル……!? どうして此処にっ!?」


 ダバルと呼ばれた若い男。

 肌の色は青く、その整った顔には紋様の様なモノが描かれ、耳はエルフの様に咎っている。

 人間ではなく、魔族……。



「フン、それは俺の台詞だろうが……」


 ラシュア帝国での魔王軍壊滅の折、姿を現さなかった四天王の一人。



「いやぁ……その、ヤボ用的な? アハハ」


 適当に取り繕うかの様なマノンの言葉に、ダバルは鋭い眼光を飛ばす。



「手筈通り、間もなく王都を我々の大軍勢が奇襲する。 新たな憑代(よりしろ)を得た閣下も、時を同じくしてお目覚めになる筈だ……」


「そ、それは何より……だね……」

(ちょっ!? 予想よりもかなり早過ぎないっ?)


 ダバルが伝えた内容に、マノンは内心では狼狽してしまった。



「ダグマとバグザンの二人も、既に前線で指揮を執っているぞ? 貴様だけが任務にも就かずに何を企んでいる……?」


「あ、えっと……何て言うか……その……」


「なら、具体的に訊こう……。どうして貴様は勇者の取り巻き共に力を与えているのだ?」


 ダバルの問いに、焦りを隠し切れないマノン。



「貴様の父、ガナガは人間でありながらも四天王に相応しい者だった。 憎悪と嫉妬、そして復讐心……。 それを成し遂げるべく、人の心を捨てた偉大な魔導士……」


「って、いきなり父親の話をされても……ねぇ?」


 唐突に、マノンの父であるガナガの話題を振るダバルの真意が掴めず、困惑してしまう。



「そのガナガは勇者によって討たれた」


「う、うん。 憎っくき勇者は父の仇だよ……」


「謂わば、貴様にとっては弔い合戦となるな」


「そ、そうだね……弔い合戦……」


 のらりくらりと相槌を打つだけのマノン。



「ならば、何故に貴様の父ガナガが命を賭して完遂させた最終破滅魔呪(ファイナルカース)を無効にしている……?」


「えっと、何の事だかさっぱり……アハハハ……」


 必死に誤魔化そうとするが、手遅れだった。

 瞬時にして、黒い霧状の何かに包まれるマノン。

 と同時に、彼女の身体から全ての魔力が消え去ってしまう。


 魔喰霧(マジックイーター)

 ダバルが操る、全ての魔法力を喰らう霧状の魔物。

 冥界と呼ばれる別世界に生息する最悪の生物。




 魔法の箒も力を失い、マノンは遥か地上に目掛けて落下してゆく……!


(そんな……マジでっ!? こんなの、私は何のため……?)



 このまま落下して自分が死ねば、ティアの到着が間に合わない。

 マノンの目論見、その全てか崩れ去ろうとしていた。



(クソ親父の思い通りになっちゃうの……?)


 クレイの叔父でありながら、家督争いに敗れた程度で魔王に(くだ)ったイカれた父親。

 本来ならば王族としてクレイと共に暮らす筈だった自分が、怪物や魔物に囲まれながら育つしかなかった原因を作った最低の父親。


 だからマノンは、ガナガが倒されたと知った時、心からクレイに感謝した。



 そして、魔王配下の四天王に迎え入れられた時、彼女は彼らの目的を知った。


 新たに拠点を移し、この大陸を壊滅させる壮大な計画。

 ヨシュア帝国に勇者がやって来た時、魔王は故意に勇者ではなく、仲間の誰かによって殺される。

 魔王のその魂は仲間の誰か一人に憑依し、新たな憑代(よりしろ)となって勇者と行動を共にする。


 その後、四天王が闇の大軍勢を率いて王都を襲撃。

 当然ながら、勇者クレイはそれを迎え討つだろう。

 その勇者は信頼していた筈の仲間の一人……つまりは覚醒した魔王によって、まさかの背後から返り討ちとなる。


 この筋書きを阻止すべく、マノンは今まで怪しげな行動をしていたのだ。


 最強のアサシンとなったサラにシグネを憎む様に仕向けて仲違いをさせたのも、ティアに偽りの感情を与えてクレイを愛する最凶の悪魔召喚士(デビルサモナー)としたのも、全ては魔王を倒せる存在の勇者クレイを守るため。


 そして、魔王が勇者を背後から討つ計画を阻止すべく、父の魔力を受け継いだマノンは暗躍を始めたのだ。


 魔王の魂が宿っている可能性があるのは、サラ、ティア、ナリア、ルーネ、シグネの五人。

 各々がクレイに恋愛感情を持ち、そして互いに憎み合う状況を作る。

 抜け駆けを牽制する彼女達が、結果的に勇者を守るという状況を。



 だが、少しばかり間に合わなかった。

 四天王ダバルに見抜かれ、魔法の力すら奪われてしまった。

 しかも、想定よりも早く王都が闇の大軍勢に襲われる。



「アハハ……マノンちゃん、ヤバたん」


 絶望しながら墜落してゆくマノンは、自らの迂闊さを噛み締めながら死を覚悟するしかなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! マノンちゃんのヒロイン力が急上昇する回でした。 ある意味、彼女こそ真の勇者といっても過言ではないくらいの働きぶりをしていたのですね…! [一言] なんかアッサリ討伐され…
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