第二の刺客、ビッチ
サラの家である薬屋の軒先。
「えっとぉ、それじゃ今からアタシ、王都に向かえば良いのかなぁ?」
「そうそう、宜しくお願い! それから、くれぐれもサラお姉ちゃんには内密に、ねっ?」
「うん、言わないよぉ! ちゃんとやってみせれば、クー君は私だけを選んでくれるもんっ!」
双方がフニャフニャした癖のある喋り方。
人によっては勘に触りそうな、妙な脱力感すら感じさせる。
元娼婦のティア、そして(自称)闇の大魔女マノンの二人である。
「あ、そうだ! 行く前に……彼氏と別れなくっちゃいけないや!」
「そうだね。 ティアちゃんの本命はクレイ様になったんだから、仕方がないよねぇ」
「えへへ、どうしてもっと早く気付かなかったんだろ、アタシって」
何やら、不穏な会話を交わすティアとマノン。
ティア自ら、彼氏と別れると言っている……?
そして、本命がクレイになった……?
身請けまでしてくれた勇者クレイを、一度は冷たく振ったティア。
その後、ぶっ飛んだ言動でサラやナリアを振り回した彼女だったが、あくまでも心を寄せる彼氏の趣向に従ってのものだった。
マノンがティアに対して、何かを施したのは確実に思える心変わり。
サラの場合は肉体的に能力を身に付けた上でメンヘラが悪化した訳だが、ティアは思考自体が変化した様に見える……。
「本当の自分が見つけられて、良かったね!」
「うんっ! これも全部、マノンちゃんのお陰だよっ」
マノンの手を握って、感謝するティア。
(こんなに上手く行くとは、マノンちゃんってば完璧過ぎるっ! ま、せいぜい頑張ってよねぇ、ビッチちゃん……)
心の奥底で嗤いながら、マノンは見事に仕上がった第二の刺客に微笑むのだった……。
(シグネはサラお姉ちゃんに始末させて、その後はビッチちゃんが……! 今の聖女ナリアは腑抜けてるし、邪魔物も居ない! んもう、やっぱマノンちゃん完璧っ!)
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夜が更けてゆく。
街道沿いで野営をしている勇者クレイ一行。
現在はルーネが一人で見張りをしながら、焚き火を絶やさない様にしている。
シグネとナリアは馬車の中で眠り、クレイは外で寝袋に入って休息を取っていた。
「はぁ……」
思わず溜め息が出てしまうルーネ。
皆が休息に入る前、シグネが剣の稽古を付けてくれた。
初めて触れ合うダークエルフなる種族の女性だったが、見習い騎士の自分にも優しく付き合ってくれた。
しかも、とんでもない美人。
可憐な美少女タイプのナリアとは正極に位置する、妖艶な雰囲気を持つ女性。
勇者クレイと恋仲であるのも、はっきり言って認めざるを得ない。
「やっぱり私なんかじゃ……全然つり合わない、か……アハハ」
自らが発した独り言に、愕然としてしまうルーネ。
「ん……何だ……?」
ハッと振り返ると、クレイが目を覚ましてしまった様だった。
まさか、自分の呟きの所為で起こしてしまったのだろうか?
「あ、ご……ごめんなさいっ、勇者様っ! 特に異常はありませんっ!」
ルーネが慌てて声を掛けるものの、既にクレイは寝袋から出てしまっている。
そして、ルーネの元へと歩み寄って来た。
「疲れてるのか? 見張りなら俺が交替するから休んでくれても……」
「あ、いえっ! だ、大丈夫ですから!」
身体ごと頭を振って返答するルーネを見て、クレイは思わず目を逸らす。
「勇者様、どうかしましたか……?」
「あ、いや……その……」
口籠もるクレイ。
ルーネは自覚していなかった。
薄手の木綿ブラウス姿の自分が、プルプルと胸を揺らしていた事に。
当初、ナリアが画策していたルーネの武器。
健全な男子たるクレイにとっては、確実に効果を発揮している。
惜しむらくは、サラやティアの様な積極性。
それをルーネが持ち合わせていなかった事だ。
「な、何でもない! 交替する時間まで、もう少し眠らせて貰うから」
「は、はい……どうぞ?」
しどろもどろに再び寝袋に入るクレイを見ながら、ルーネは首を捻った。
(急にどうしたのかな、勇者様……?)
みすみす絶好のチャンスを逃した事に、まったく気付かずにいたルーネであった。
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