義姉、決断する(チョロい)
「そんなの、無理に決まってるでしょ!」
マノンが告げた戯言に対し、強く反論するサラ。
たった一日でシグネより強くなる、そんな夢物語を信じられる訳がない。
ましてや、相手は世界に三人しか居ないプラチナ級冒険者である魔法戦士。
そのシグネがどれだけ凄いのか、サラは実際に目の当たりにしているのだから。
「それが、出来ちゃうんだなぁ! サラお姉ちゃんの覚悟次第で……ね?」
薄気味悪い嗤いを崩さず、そう囁くマノン。
「アンタが何を企んでるのかは知らないけど、私はこれ以上……クレイに迷惑を掛けたりしない! だから……もう帰ってよ!」
「頑固だねぇ。 でもね、サラお姉ちゃん? もしもシグネの奴が、何かの意図を隠しているとしたら?」
「何かの……意図? 何を言ってんのよ?」
マノンは真顔に変わり、サラの顔を見つめる。
「この大陸のダークエルフって種族なんだけどね、現在では生き残っているのって……たった一人だけなの。 その昔、先代の魔王に与したダークエルフ達は……」
マノンの話に、サラは静かに息を呑む。
「とある人間によって集落ごと焼き払われ、一族郎党全てが皆殺しにされたんだよ。 その唯一の生き残りこそ、あの女。 そして、その人間こそ……先代の勇者……!」
「それじゃあ、昔の勇者が……ダークエルフを……滅ぼした?」
復唱するかの様に、思わず呟いてしまったサラ。
もしもマノンが言っている事が真実であるなら、勇者であるクレイにシグネが近付いた理由は……?
「今、サラお姉ちゃんが考えている通りだよ? だから、誰かがクレイ様を守ってあげなきゃいけないと思うんだぁ、寝首を掻かれない様にさぁ〜」
「それならアンタが! アンタがクレイを守ってあげてよ! 魔女だか何だか知らないけど……アンタなら出来るんでしょう?」
「だからぁ、それはサラお姉ちゃん次第だって言ってるじゃん! お姉ちゃんが金輪際クレイ様を諦めるのなら、勿論あたしがやるよ? せっかくチャンスをあげようと思っただけなのに、見ず知らずのあたしに委ねちゃっても良いのかなぁ?」
「そ、それは……」
嘘か真かは解らない。
こんな話、どう考えても胡散臭い。
だが、これは神様が与えてくれたチャンスである気がしないでもない。
そんな葛藤がサラの頭の中をぐるぐると回る。
「ねぇ、どうする? サラお姉ちゃん?」
マノンの妖しげな表情を凝視しながら、サラは遂に決断した。
「で、どうすんのよ? 私が一日で強くなれる方法ってのは」
「流石はサラお姉ちゃん! 純愛に生きる女! あたしの目に狂いはなかったぁ!」
なし崩し的に決意をしたサラに、歓喜の声を上げながら抱きつくマノン。
「じゃあ、先ずは眠っちゃいましょうか? 今から睡眠学習ってやつを施してあげるね……」
耳元でマノンがそう囁いた直後。
サラの意識は遠退き、その身体は力無くパタリと倒れ込んだ。
サラの身体を引き摺ってベッドに運ぶと、マノンは部屋の中を見回す。
机の上にはマノンが探していた物は無かった。
次に目に入ったチェスト。
引き出しを開けると、それは簡単に発見出来た。
「そうそう、これこれ!」
それは、猛毒が塗られたナイフ。
聖女ナリアが居なければルーネを殺めたであろう、あのナイフである。
鼻唄混じりに、ベッドの上で昏睡するサラの手にそれを握らせるマノン。
「それでは、世界最強のアサシン育成計画……始めちゃうよぉ!」
静かに寝息を立てるサラを見下ろすと、マノンは何かを詠唱し始めるのだった……。
チョロいw




