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聖女が勇者を待っている、らしい

 

 それから、少女達を帰還させる道中は酷いものであった。


 先頭を歩く俺から、少女達はかなりの距離を取り、振り向くだけで引き()って怯える始末。

 三者三様に自分の胸を腕で隠し、ブルブルと震え出してしまう。


 ガナガの地下牢で最初に話して以来、一言も口を聞いてくれていない。



 沈黙の中で歩く事、半日。

 彼女達の故郷である村が見える場所にやって来ると、誰一人として礼も言わずに俺の元から走り去り、そのまま行ってしまうのであった……。


 見返りを求めている訳ではないのだが、せめて感謝ぐらいはして欲しかったとは思うが仕方あるまい。




 しかし……これはいったい、何がどうなっているのか?


 俺が喋ろうとする言葉は全て、あろう事か『おっぱい』となってしまう。

 意思とは違い、勝手にそう発声されてしまうのだ。


 小声で独り言を口にしてみても、やはり同じであった。


 世界を救う伝説の勇者となる筈の俺は、今や『おっぱい』としか喋れない変質者になってしまっている……。



 やはり、考えられるのは只一つ。


 魔導士ガナガが死の間際に言っていた『最後の実験』がどうとやら……。

 おそらく、奴による呪いの様なものに違いない。


 あまりにも馬鹿が過ぎる呪いである……。



 何にせよ、一刻も早く解呪の手段を考えなければなるまい。

 魔王を倒すまでの果てしない旅は始まったばかりだというのに、予想だにしなかった事態。



 だが、俺は運が良い。

 幸いにして、現在地からは大聖堂と呼ばれる場所が近い。

 この国の王ですら越権する枢機卿……つまり、神官の親玉が居を構えている、神を信仰する者にとっての巡礼地である。


 そこに居る高位な神官達ならば、まるで子供の嫌がらせレベルの呪いも解呪出来る事だろう。



 助けた少女達が村へ向かって遠ざかるのを横目に、俺は踵を返して新たな目的地へと向かう事にしたのだった。





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 そして、数日後。

 俺は遂に大聖堂へとやって来たのだった。


 巨大な建造物である大聖堂を囲む様に、数々の商店や宿屋、酒場までもが並んでおり、さながら城下町といった形相になっている。


 此処は信者にとっての巡礼地であるが、その荘巌な雰囲気から観光地としても人気がある。

 魔王が世界を滅ぼそうとしているにも関わらず、そんな事すら知らない人々の生活は何も変わらない。



 そして……。

 俺には呪いを解く以外にも、もう一つの目的もあった。

 この地で是非とも、旅の仲間を見つけたいと考えていたのだ。


 此処には優秀な神官が揃っていると聞いている。

 それだけではなく、枢機卿に仕える『聖騎士』と呼ばれる神官戦士、更には『聖女』と呼ばれる大神官の女性が居る事でも有名だ。


 神の奇跡である治癒能力や防御魔法を使いこなす彼らの力は、恐るべき魔王と対峙する際には必要不可欠なのは言うまでもないだろう。

 世界を憂う彼らならば、きっと俺の力添えをしてくれる筈だ。



 しかし、先ずは情報収集、それから腹ごしらえが必要だ。

 ここ暫くの間、乾パンや干し肉等の携帯用保存食しか食べていない。

 久し振りにまともな食事がしたいのは、当然の事だった。




「いらっしゃいませぇーーー!」


 適当に目についた大衆食堂に入ると、看板娘の元気な声が響く。

 ホールを切り盛りしているのは15〜6歳の若く可愛い女の子。

 髪を結い上げ、ヘアバンドで前髪も留めているのは食事処である以上は好印象だ。


 店内は昼食時だった為か、ほぼ満席で賑わっている。



「お客さん、ご注文は如何されますかぁ?」


 ニコニコと笑顔を振り撒きながら、俺の元へとオーダーを取りに来た看板娘。


 一瞬、お勧めのメニューを訊こうと思ったが、慌てて躊躇する。

 またもや『おっぱい』と声を出す訳にはいかない。


 俺は何も言わず、メニュー表にあった日替わりの定食を指差した。



「日替わり定食ですね、かしこまりましたぁ! ところで、お客様は冒険者の方なんですか?」


 巡礼や観光に来た者達とは違った俺の()で立ちを見て、看板娘はそう尋ねて来た。


 俺は首を縦に振り、無言で答える。



「そうなんですね! まさか、お客さんが『伝説の勇者』だったり……する訳ないかぁ、あははッ!」


 その言葉に、俺は目を丸くして唖然としてしまう。



「なんでもね……聖女ナリア様が、今日は伝説の勇者様がやって来るって神のお告げを聞いたそうで……今日は朝から大聖堂は厳戒体制になってるんですよ」


 成る程、聖女ナリアか……。

 きっと俺の仲間となる運命の者に違いないだろう。


 新たな仲間との出会いの予感に胸が踊らせながら、俺は食事が運ばれてくるのを待つのだった。


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