元娼婦、驚愕の真相
「つまり、ティアさんの身請けをする為、聖剣を……売り払った……と……!?」
ティアが語った昨日の出来事に、ナリアは衝撃を受けていた。
先程の凶行現場から場所を変え、再びサラの自宅である薬屋の中に集まった四人の少女達。
(あの変態勇者……ド阿呆でしょ! マジで頭おかしいでしょ……!)
有り得ない、有り得なさ過ぎる……!
頭を抱えて蹲まりたくなる衝動を、必死に堪えながら平然を装うナリア。
古今東西、古の時代から伝わる様々な英雄譚がある。
しかし、娼婦の身請けをする為に聖剣を売り払った勇者など、聞いた事もないし、想像すらしたくない。
「ま、まぁ……過ぎた事は仕方がありません。 それよりも、肝心のクレイ様はどちらにいらっしゃるのでしょう?」
何とか気を取り直しながら、当事者の所在を確認するナリアだったが……。
「さぁ? アタシも知らないですよぉ。 クー君、何処に行っちゃったのかなぁ?」
能天気なティアの返答には、遂にナリアも項垂れるしかなかった。
そして案の定、その言葉に再び激昂する者が一人……。
「ア、アンタね! クレイに身請けして貰ったんでしょう? どうして一緒に居ないのよッ!?」
婚約者である義姉、サラである。
ルーネの身を呈した仲裁(?)によって、一旦は息を潜めていた筈の怒りが再びメラメラと燃え上がり始めてしまう。
「アタシに彼氏が居るって言ったら、ガックリして何処かに行っちゃったんだもん」
「何を考えてんのよ!? クレイに失礼だと思わないの、アンタ!」
今朝、サラは自分が口にしたシチュエーションを想像して怒り狂っていた筈で……つまり、明らかに矛盾している発言。
これもクレイを愛するあまりのメンヘラ思考によるものだ。
ヤンデレが行き着く先、それは支離滅裂な言動。
「そんな事言われても、アタシは正直に伝えただけだよぉ?」
「ハイハイ、もう解ったから! それじゃ、アンタはもうクレイには関係ないわよね? とっとと彼氏の元に帰りなさいよ!」
そう言いながら、サラはティアの肩を押し出そうとする。
「あ、あのっ! お二人共、もう喧嘩しないで下さい……」
二人を見ながら、慌てて消えそうな声を掛けるルーネ。
「帰らないよぉ? 実は、アタシにもクー君に用があるんだ」
「何でよ! アンタ、身請けしてくれた恩人のクレイを冷たく振ったんでしょ!」
「うーん、そうなのかなぁ?」
「彼氏が居るって言った以上、普通はそうなのよ!」
クレイを巡っての二人の口論は続く。
再度勃発した痴話喧嘩を聴かせられながら、頭を抱えるナリアと心配そうに狼狽えるルーネ。
「えっとね、アタシの彼氏がクー君の元に行けって言うからぁ……」
「はぁ? 意味が解んないよ?」
「アタシの彼氏ね、アタシが他の人に抱かれたら、堪らなく嬉しくなっちゃう人なんだ!」
まさかの、衝撃的な発言。
付き合っている彼氏とやらは、常人の理解を遥かに超えている性癖の持ち主だった。
「自分の彼女が寝取られたら……嬉しいって……何なのよ、それ!?」
「でさ、勇者に托卵されてこいって言われたの!」
「た、た……托卵!? そ、そんなの、駄目に決まってるでしょ!? アンタ、何を考えてんのよッ!」
「でも、サラが婚約破棄したから大丈夫だよねっ?」
「えっ? いや、あれは……その、言葉のあやと言うか……違うから……」
にこやかに笑いながら、驚愕の事実を語ったティア。
言葉が続かないサラは口を開けたまま沈黙し、ナリアは膝から崩れ落ち、理解出来ないウブなルーネは眉を顰める。
元娼婦の少女、ティア。
彼女も……ヤバイ奴だと発覚した瞬間であった。
酷い!/(^o^)\




