メンヘラ、怪訝がる
「あの、こちらの家の方でいらっしゃいますか?」
毒を塗ったナイフを密かに忍ばせ、家を出ようとしたサラに掛けられた声。
そうサラに訊いたのは、純白の法衣を纏った少女。
その横には、胸以外に甲冑を付けた騎士の様な少女も居る。
薬を求めに来た冒険者なのだろうか……?
二人共、サラは見た事もない顔である。
少なくとも、この町の人間ではない筈だ。
「あ、ごめんなさい! お店は暫く休業なんですよ〜」
躊躇なく、サラはそう言い放つ。
せっかく足を運んでくれた客には悪いが、今はクソビッチから愛するクレイを取り返すべく行動に移らなければならない。
「失礼致しました、買い物に来た訳ではございません。 実は、勇者クレイ様にお会いしたく……」
法衣姿の神官らしき少女の言葉に、サラの視線は鋭く変わる。
(何なの……この女達? クレイに会いに来た?)
まさか、クレイの知り合いなのだろうか?
サラは再び、彼女達を注意深く観察する。
年齢的には自分と同じく、見た感じは10代後半。
二人共にお世辞抜きにして、美少女であった……。
清楚を絵に描いた様な、金髪碧眼の神官少女。
もう一人はその護衛だろうか?
あどけない顔立ち、豊かな胸の大きさとのギャップが目立つ、騎士っぽい少女。
同性ながら、嫌でも胸に目が行ってしまう凶悪なバスト。
「それで……勇者様はご在宅でしょうか?」
笑顔でサラに尋ねたのは、大聖堂から遠路遥々やって来た聖女ナリア。
そして、ナリアが強引に護衛役として抜擢した、聖騎士見習いの少女ルーネ。
そのルーネと共に、ナリアは勇者クレイの足取りを辿って此処へとやって来たのである。
既に枢機卿が先行させていた斥候からの報告もあり、勇者クレイが故郷であるこの町に帰還した事は既に知っている。
馬を走らせたのが幸いし、迅速に後を追えたのだ。
(さてと、次は変態勇者をルーネの胸で釣るだけ……簡単じゃないの)
後はルーネを餌にして、勇者クレイを籠絡するだけの簡単な任務。
だが、そんなナリアの企みを阻止する存在が現れた。
「クレイは居ませんよ! まぁ、居たとしても泥棒猫に私が会わせたりしないし……フフフッ」
それは、サラの女の勘であった。
ルーネの胸を見た瞬間から、ブラコン炸裂な義姉は危険を感じたのだ。
(クレイに会わせる訳にはいかない……! 特に、このクソ乳女は危険だわ……!)
眉を顰めながら、サラは二人に対して敵意を募らせてゆく……。
「あ、あの……泥棒猫って、いったい? 私達はですね……」
「帰ってくれますか? 私、クレイの許嫁なんです。 何の用なのかは知らないですけど、貴女達をクレイには会わせませんから!」
神官の少女の声を遮って、牙を剥いたサラ。
「はわわわ! 何だか怒ってますよ、ナリア様?」
ルーネが不安そうにナリアの顔を伺う。
「あら、勇者様ったら……こんなに素敵な許嫁の方がいらっしゃったのですね!」
だが、ナリアは見事な機転を利かせる。
幼い頃から大人達の権力争いを目にしていた彼女にとっては、サラの考えを見破るのは朝飯前、簡単な事であった。
「え……? は、はいっ……」
(あ、あれ? この子達……クレイに下心ある訳じゃなかった?)
逆に、そう言われたサラの方が面食らってしまう。
「申し遅れました。 私は大聖堂からやって参りましたナリアです。 こちらは護衛のルーネ」
(変態勇者の奴に……嫉妬深い許嫁なんか居やがったの? これは……作戦変更が必要みたいね、まったく)
「あ……えっと、サラ……です……」
サラに向けた笑顔の下で、ナリアは狡猾に今後の進め方を考え始める。
こうして、当事者たる勇者クレイが知らぬ処で……ヤンデレ義姉、そして腹黒聖女による、互いの探り合いが始められようとしていた。
ところで、いつになったら冒険するんだチミ達?




